電力小売に参入済みの東京ガスは洋上風力発電に乗り出すなら、FIT を使わず自らの顧客に販売すべきだ

 読売新聞によりますと、東京ガスと日立製作所が茨城県の沖合で洋上風力発電所の建設に乗り出すとのことです。

 洋上風力発電は 1kW/h あたり、36円で買取が行われると FIT で定められています。そのため、発電事業者として採算が取れると判断したのでしょう。しかし、東京ガスが電力小売にも参入しているのです。

 もし、洋上風力発電で乗り出すのであれば、そこで発電した電力は FIT を通して東京電力の消費者に押し付けるのではなく、自分たち(東京ガス)の顧客に分担してもらうべきと言えるでしょう。

 

 東京ガスと日立製作所が、茨城県沖合で首都圏最大級となる洋上風力発電所の建設に乗り出すことがわかった。

 20万~30万キロ・ワットの発電能力を見込み、2020年代半ばの稼働を目指す。建設を通じて技術力を高め、国内でまだ少ない洋上風力発電の普及に弾みをつける。

 (中略)

 風量が年間を通じて安定している洋上では、陸上に比べて風力発電の発電効率が高い。近くに民家がなく、騒音問題も起きにくい。

 洋上での風車建設や送電線の設置に多額の費用がかかることが課題だった。しかし、再生可能エネルギーによる電気を電力会社に買い取らせる「固定価格買い取り制度」で、14年度から洋上風力発電は1キロ・ワット時あたり36円と陸上の同20円程度より高く設定されており、両社は巨額の事業費となっても採算が合うと判断した。

 

 

1:陸上よりは洋上風力発電の方が効率が良い

 陸上での風力発電より、洋上で行った方が効率が良いことは確かです。風量が多く、(プロペラが回転する際などの)騒音問題は近隣住民がいないため問題とならないからです。

 また、FIT での全量固定買取価格が陸上よりも高額であることも魅力と言えるでしょう。

 しかし、海上に建設する訳ですから、発電施設の建設やメンテナンス、送電線の設置などに対するコストが高くなるという問題があります。

 課題はある訳ですが、1kW/h あたり36円という買取価格であれば、発電事業者としての収益は回収できると判断したのでしょう。

 

2:効率が良くても、実際の発電稼働率は 30% ほどに過ぎない

 風力発電も「エコ」と見られている発電方法でしょう。ただ、太陽光発電と同じでベースロード電源として機能できない致命的な欠点を有しています。

 それは風量が一定ではなく、電力消費のニーズと合致しないことが理由です。

  • 洋上風力発電の理論値
    • 稼働率:90%
    • 設備利用率:30%

 注意が必要なのは洋上風力発電の稼働率は発電施設が稼働していた割合であり、実際に発電していた割合ではないということです。風が吹けば、プロペラ部分は回転し、電力は作り出されます。

 しかし、定格出力(=連続的に使用できる出力)に達しなければ、発電の意味がないのです。

 現実の稼働率は『設備利用率』で求められています。これは『設備利用率』=発電量÷(定格出力×全時間)で計算することが可能です。洋上風力発電の『設備利用率』は 30% が目標ですので、残りの 70% 前後は他の電力源によるバックアップが欠かせないという問題を抱えているのです。

 

3:新しい技術にチャレンジする姿勢は評価できるが、請求書の宛先を間違っている

 新しい技術にチャレンジする東京ガスや日立の姿勢は素晴らしいものでしょう。しかし、FIT を使うことは明らかに間違いです。

 なぜなら、東京ガスが電力小売に参入済みであり、1kW/h あたり36円の割高な電力の請求書を最初に送りつけるのは東京ガスと契約する電力消費者でなければならないからです。

 “エコ” や “環境” に関心の強い人々は洋上風力で発電された “クリーンな電力” を喜んで使ってくれることでしょう。価格が多少割高であっても、彼らの意識が本物であれば、東京ガスの電力契約件数が下がることはないはずです。

 小売では「安さ」を売りにする一方で、発電では FIT を活用して利ざやを稼ぐビジネスモデルに対しては批判しなければなりません。「自由化を最大限活用した結果だ」と反論されればそれまでですが、重要な社会インフラに競争原理が持ち込まれたことは問題視すべきと言えるのではないでしょうか。