NHKが「原発事故対応の作業員が被ばくによる癌を発症した労災」とのミスリード記事を書き、朝日新聞の記者がツイートによる拡散を行う

 NHK が「福島第一原発 作業員がんで死亡 被ばくによる労災と認定」との記事を9月4日付で掲載していますが、記事は明らかなミスリードです。また、この記事を朝日新聞の記者がツイートして拡散に加担していることも大きな問題です。

画像:NHKが報じた記事に対するファクトチェック

 

■ NHK が報じた記事の内容

 NHK は9月4日付の記事で以下のように報じました。

画像:NHKが9月4日付で報じた記事

 東京電力福島第一原子力発電所の事故で、放射線量を測定する業務などにあたっていた50代の男性作業員が肺がんを発症して死亡し、厚生労働省は被ばくによる労災と認定しました。原発事故の収束作業をめぐって、がんで死亡したケースが労災と認定されたのは初めてです。

 (中略)

 厚生労働省は遺族の意向として死亡した時期などを明らかにしていませんが、男性の被ばく線量は合わせておよそ195ミリシーベルトに上り、被ばくによってがんを発症した労災だと先月31日に認定しました。

 この記事を読むと、「福島第一原発で働く作業員が原発事故後に被爆し、肺がんを発症し、亡くなった」と読めるでしょう。しかし、“伝えられていなければならない情報” はすべて言及されていません。

 また、朝日新聞の青木美希記者もこのニュースをツイートし、間違った情報が伝えられることに加担していることも問題と言わざるを得ません。

画像:青木美希記者のツイート

 

■ 事実

1:「男性作業員は原発事故後に195ミリシーベルトを被爆したのではない」という現実

 NHK が報じた内容に “漏れ” があることは毎日新聞が報じたニュースから明らかです。この情報を伝えていない時点で、NHK は「肺がん発症が被爆によるもの」との印象を抱かせようとしていると言えるでしょう。

 厚労省によると、男性は1980年6月~2015年9月のうち約28年3カ月、第1原発を中心に全国の原発で作業に従事し、累積の被ばく線量は約195ミリシーベルトだった。このうち11年3月の事故後の被ばく線量は、同年12月までが約34ミリシーベルトで、15年9月には約74ミリシーベルトに達した。主に第1原発の構内外で放射線を測定し、作業中は防護服や全面マスクを着用していたという。

 時系列を図示すると、次のようになります。

画像:肺がん発症による労災が認定された原発作業員の累積被爆線量

 NHK のニュースでは「原発事故後に195ミリシーベルトの被爆があった」との印象を抱くことになりますが、実際は「事故前の時点で既に121ミリシーベルトを被爆しており、事故後は74ミリシーベルト」だったのです。

 こうした情報が編集作業を経る中で落とされることは問題と言えるでしょう。なぜなら、風評を引き起こす元凶となるからです。

 

2:因果関係が証明されていなくても、労災は認定される

 労災認定は「労働者保護」の観点から、『因果関係の有無』は厳格に適用されていません。これは厳格に運用してしまうと、“労働者の保護” にはならないからです。

 そのため、「可能性があるかもしれない」程度で労災認定が下りることが一般的です。

 喫煙者であったり、職場の分煙環境によっても、肺がんが発症する確率は高くなります。どれだけヘビースモーカーであっても、労災基準(=累積で100ミリシーベルトの被爆線量など)を満たしていれば、認定されるという現実があるのです。

 現実には200ミリシーベルト程度の低線量被爆で『被爆』と『発がん』の因果関係を証明することは不可能です。被爆と無関係な癌の方が圧倒的に多く、同様の被爆環境にあるレントゲン関係の職場においても証明されていないことだからです。

 「被爆と肺がん発症の因果関係は証明されていないが、労働者保護の観点から労災が認定された」と正確に伝えることができないメディアの信頼は低下し続けて当然と言えるのではないでしょうか。