関空の連絡橋にタンカーが衝突した事故、様々な視点からの再発防止策を講じることが求められる

 大阪府や兵庫県は台風21号による大きな影響を受けました。NHK によりますと、関西空港の連絡橋に衝突したタンカーの調査を海上保安庁が始めたとのことです。

 空港へのアクセスに影響が出ており、再発防止策を講じる必要があることは言うまでもありません。ただ、複数の視点から事故原因への対策を確立させる必要があると言えるでしょう。

 

 4日、関西空港の連絡橋に衝突したタンカーは、5日未明に橋にめり込んでいた船体が引き離され、午前10時ごろからは海上保安庁の職員が乗り込んで、事故が起きた当時の状況や事故の原因などを調査しています。

 (中略)

 関西空港の連絡橋に衝突したタンカー「宝運丸」を所有する、福岡市の日之出海運によりますと、3日、関西空港で積み荷の航空機用のジェット燃料をおろしたあと、台風の接近に備え、沖合にいかりをおろして停泊していたところ、流されたということです。

 飛行機はジェット燃料を動力としているのですから、海上空港にタンカーでジェット燃料を大量輸送することは理に叶った手法です。ただ、今回の件は「判断を見直すに値する項目」があるため、事故原因の追求とともに実施する必要があるでしょう。

 

「関空の沖合に(いかりを下ろして)停泊する」という判断は適切だったのか

 まず、最初に確認する必要があるのは「積荷のジェット燃料を3日に下ろし終えた後、関空の沖合での停泊を決断した理由」です。

  • 2日の時点で「4日に台風21号が近畿圏に接近する恐れ」との予報
  • 『宝運丸』は関西圏の製油所から関空に燃料を輸送(月10回のペース)
  • 今回は2日に堺泉北港を出港し、3日に関空に到着
  • 3日午後1時には燃料を積み下ろし、関空を出港
    → 空港の沖合2キロに錨を下ろして停泊

 2日の予報では「台風21号は4日に四国に上陸。その後、兵庫県西部に再上陸」となっていました。つまり、関空のある大阪湾は “台風の進路の東側” に当たると予想されていたのです。

 強い風が吹く “進路の東側” に停泊するのはリスクが伴います。そのため、「『宝運丸』が台風21号による影響を避けることは現実的に可能な選択肢だったのか」を確認する必要があると言えるでしょう。

 

次に、「停泊場所が適切だったか」を確認すべきだ

 台風の暴風域を避けることが最も有効な対処策ですが、台風が予報どおりの動きをする保証はありません。

 また、今回の事故では『宝運丸』が航行用の燃料がどれだけ積んでいたかも(現時点では)不明なため、停泊を決断する船舶が出てくる前提での対応を整理しておかなければなりません。

画像:大阪湾では台風などで錨泊が行われる頻度が高い海域

 「大阪湾では台風などで錨泊が行われる頻度が高い海域は上図である」と神戸海難防止研究会が発表(PDF)しています。

 『宝運丸』は “関西空港と陸地の中間部付近” に停泊していました。図中に「D」と表示された海域の北東に該当するエリアです。

 「台風接近の1日前から該当のエリアに停泊を決断したこと」に対する是非は精査する必要はあるはずです。「B海域やD海域に錨泊する」という選択肢はあったはずですから、“これらの選択肢が見送られることになった理由” は公表するべきと言えるでしょう。

 

「走錨が起きることはある」との前提を持っておく必要がある

 船舶が停泊する場合、波風で流されないよう錨を下すことで対処しています。しかし、猛烈な風が吹く場合などで錨ごと流されることがあり、これを「走錨(そうびょう)」と言います。

 走錨による事故としては洞爺丸(1954年)や練習船・海王丸(2004年)などがあり、「荒天時の走錨防止」を呼びかける運動は全国で行われている状況なのです。

 ここで重要なのは「注意することで防げる走錨」と「防ぎようのない走錨」があるということです。

 船舶の乗組員が最善を尽くしても、走錨が起きる場合はあります。被害を受けた側が「怒り」を持つことが当然ですが、やるべきことをすべて実施していた相手に “八つ当たり” をしてしまっては悪影響が社会に波及する原因になってしまうのです。

 保険などによる救済策が存在する訳ですから、怒りに任せた “言いがかり” は自重した上で、根拠に基づく批判をすることが重要になるでしょう。

 

 まずは海上保安庁などの公的機関が発表するであろう事故調査報告書が公表されることを待つ必要があると言えるのではないでしょうか。