「先発ローテーション」や「勝利の方程式」が存在するプロ野球で、大差を理由に主力野手を交代することは “捨て試合” ではない

 4月18日に行われたプロ野球・ヤクルト対阪神戦で、試合中盤に大差のリードを許したヤクルトの小川監督が主軸打者を下げる采配を行いました。

 これに対し、「捨て試合」との批判が一部で起きているとのことです。しかし、この批判は的外れと言わざるを得ないでしょう。なぜなら、短期的な視野に立ったナンセンスな批判だからです。

 

 首位を走るヤクルトの小川淳司監督(61)は阪神戦(神宮)で4回までに2ー10と大差をつけられると、5回の守備から主軸打者をごっそりとベンチに下げた。

 直前の4回に4号ソロを放った3番・山田哲のほか、2番・青木、4番・バレンティンもベンチへ。

 3回途中には先発投手の大下と捕手の松本直もベンチに下げており、5回終了の試合成立を前に先発メンバーで残っているのは4人だけ。1番・太田は5回に守備位置が三塁から二塁へ変更となっており、ここまで何も変更がないのは「5番・右翼」雄平、「6番・遊撃」西浦、「7番・一塁」村上の3人だけとなった。

 

リーグ戦では「敗け」が許される上、プロ野球では2勝1敗のペースを維持できれば日本一になれる

 まず、プロ野球はリーグ戦で覇権が争われます。リーグ戦ではトーナメント戦とは異なり、「敗け」が許されています。これがリーグ戦の大前提です。

 どのぐらいの敗けが容認されているかと言いますと、2勝1敗のペースが維持できれば日本一になれます。なぜなら、143試合に換算すると「95勝48敗」になるからです。

 広島が2016年以降に記録した勝利数は89勝・88勝・82勝。セリーグ3連覇中の “絶対王者” でもこの数字なのです。一方、パリーグは87勝(日本ハム)・94勝(ソフトバンク)・88勝(西武)であり、圧倒的だった2017年のソフトバンクが「2勝1敗のペース」に肉薄していました。

 つまり、他のスポーツと比較して、野球は圧倒的な強さを誇るチームでも頻繁に敗けるのです。そのため、「敗け」が濃厚な試合で主力選手を消耗することは避けなければならないことなのです。

 

シーズン序盤戦での “敗け試合” で主力選手を酷使する意味はない

 小川監督の采配を批判する内容は「観戦に来たファンに失礼」と言うものでしょう。しかし、これは “目先の利益” を優先した主張です。

 なぜなら、チームの目標は「日本一」なのですから、そこから逆算した采配を理解しなければなりません

  • シーズン序盤戦
  • 1勝1分で迎えた3連戦の3戦目
  • 5回を 2-10 の8点ビハインドで迎える

 この状況で主軸打者にプレーを強いる意味はありません。ヤクルトは昨年のクライマックスシリーズで青木選手を負傷で欠き、ファイナルステージへの切符を逃しました。

 つまり、主軸打者が離脱した際の “穴” を埋められる選手を「敗け試合」で経験を積ませて成長を促しておくことが重要なのです。

 1軍と2軍では投手のレベルが違うのですから、1軍でしか得られない経験は存在します。「敗け試合でも主軸打者を使い続ける」ことで、「若手選手の1軍での出場機会」が損なわれているのです。

 この点は見落とすべきではないでしょう。

 

『勝利の方程式』と銘打ち、“敗け試合” で主戦級投手の起用を拒む采配も「ファンに失礼な采配」だ

 小川監督の采配を「観戦に来たファンに失礼」と批判をするなら、主軸打者を下げたことだけではなく、中継ぎの主戦投手を投入しなかったことも批判しなければなりません

 『先発ローテーション』や『勝利の方程式』と名付け、「主力投手の温存」は容認されているのです。

 試合を捨てていないのであれば、ブルペン陣の中でも実力のある投手を起用することでしょう。しかし、相手チームにリードを許している試合展開ではクローザーやセットアッパーの投入は見送られているのです。

 「投手起用の “捨て試合” は許容され、野手起用の “捨て試合” は批判の対象」はダブルスタンダードです。「投手のローテーションはシーズン全体を見据えた最も合理的な起用方法」であると主張するなら、それは野手陣にも言えることです。

 選手の酷使は問題ですし、若手有望株の選手に出場機会が与えられないことも問題なのです。

 

 「目先の1勝」に強い執着心を見せるのはペナント最終盤以降であるべきでしょう。今はクライマックスシリーズや日本シリーズで「1戦必勝」の采配を行うための準備期間なのです。

 “選手層の底上げ” という育成の意味合いもあるリーグ戦で、将来の主力選手に経験を積ませる機会を否定するファンは「ファンを名乗るファンでない人物」として要求を受け流す必要があると言えるのではないでしょうか。