日本ハムの移転で取り残されることになった札幌ドーム、運営会社が「年3億円の赤字になる見通し」と “大甘な予測” を出す状況となる

 北海道新聞によりますと、日本ハム・ファイターズが移転した後の札幌ドームは「売上高が半減し、収支は年3億円の赤字になる見通し」と運営会社が試算したとのことです。

 これは以前から指摘されていたことであり、驚きは少ないと言えるでしょう。ただ、試算は「かなり甘い予測に基づく内容」となっており、実際の赤字額は倍以上になる恐れがあると考えられます。

 自業自得と言える状況であるだけに札幌市の対応は「問題視されるべき」と言えるはずです。

 

 札幌市が所有する札幌ドーム(豊平区)の売り上げは、プロ野球北海道日本ハムが2023年度に本拠地を北広島市に移した場合、年間40億円前後だったここ数年の半分を下回り、約18億円となることが、施設を運営する市の第三セクター「札幌ドーム」などによる試算でわかった。サッカーJ1の試合増など増収策を講じる前提の試算で、経常収支は約3億円の赤字となる見通し。

 札幌ドームの売上に多大な貢献をしていた “店子” が移転するのです。売上高(の予測)がマイナスになるのは当然と言えるでしょう。

画像:札幌ドームの売上高推移

 また、収支もマイナスになっていることも問題です。これは「プロ野球以外では儲けを出せていない」という実情が明らかになったことも問題視しなければなりません。

 

札幌ドームのイベント日数は「年130日強」、その半分以上は「ファイターズの公式戦」

 札幌ドームの稼働率は 74.2% と公表(PDF)されていますが、これは設営撤去などを含めた「総利用日数」から算出された数字です。

 収益源になるのは「総イベント開催日数」であり、2018年期(平成30年期)は133日(= 36.4%)です。ファイターズは年間70試合以上の主催試合を行っているのですから、札幌ドームを利用しなくなる影響を軽視することはできないと言えるでしょう。

 なぜなら、過去に大まかな試算をしましたが、ファイターズは札幌ドームに年20億円以上を支払っているからです。ファイターズが抜けた穴を埋めるには「税金による補填」が最も現実的と考えられます。

 

「テコ入れ策が上手く機能して、売上高が18億円」という予測が持つ意味

 「年間40億円前後の売上高だった札幌ドームがファイターズの移転後は3億円の売上増を見込んでも18億円に落ち込む」と記事で言及されています。これは「ファイターズは年25億円を札幌ドームに支払っている」と言えるでしょう。

 ただ、売上を増加させる経営計画は具体性が乏しく、収支は年3億円の赤字では済まない可能性があります。

  • コンサドーレ札幌の全ホーム試合を札幌ドームで実施
  • コンサートなど大規模イベント誘致
  • ドーム内を仕切り2万人規模のイベントを可能にする
  • 自主事業を増やす

 ファイターズに匹敵する “優良コンテンツ” を見つけることは困難を極めます。なぜなら、平日に大人数を集客できるコンテンツはプロ野球以外では皆無に近いからです。

 コンサートを誘致するにしても、基本的には金土日です。しかも、ドームを埋められるアーティストは限られるため、「売上高や収益の安定への貢献度は低い」と見ておく必要があるでしょう。

 

「商業事業」や「その他事業」もファイターズ移転による大きな影響を受ける

 札幌ドームの主要事業は以下の4つです。「観光事業」を除き、ファイターズの移転による大きな影響を被ることになると言えるでしょう。

  • 貸館事業:施設の貸し出し
  • 商業事業:ドーム内の飲食・物販事業の管理運営
  • 観光事業:ドーム展望台やドーム見学ツアーの運営
  • その他事業:チケット・駐車場・広告事業など

 ファイターズは「札幌ドームの施設をほぼフル利用」する上、ドーム内に掲載する広告主も見つけて来てくれます。しかも観客がドーム内で飲食した分の取り分も得られるのですから、札幌ドームにとって「ファイターズは打ち出の小槌」と言えるでしょう。

 ところが、ファイターズ以外のコンテンツでは「商業事業」や「その他事業」が絶望的になります。

 イベント開催日の絶対数が少なくなりますし、飲食事業や広告事業の売上高はプロ野球開催時と比較して大きく落ちるはずです。これはプロ野球は「3時間以上の試合時間がある上、訪問者が飲食や物販を購入する機会が多いから」です。

 「サッカーやコンサートでプロ野球と同じ金額が札幌ドームに落とされる可能性は低い」という認識を持っていなければ、ファイターズ移転後の札幌ドームの年間赤字額は3億円では済まない可能性が高いと言わざるを得ないでしょう。

 

札幌市は「北海道はファイターズの保護地域」という現実を甘く見ていると痛い目を見る

 札幌ドームの山川社長は「プロ野球の試合を積極誘致したい」、「ファイターズには年数試合を開催して欲しい」と意気込みを語っていますが、現実を見なければなりません。

 なぜなら、北海道は日本ハム・ファイターズの保護地域だからです。プロ野球には「保護地域」があり、保護地域内でプロ野球を行うには独占興業権を持つ球団から許可を得ることが必須です。

 つまり、北海道でプロ野球を行うには日本ハム・ファイターズの許可が必要不可欠なのです。

 この現実を甘く見るべきではないでしょう。これまで札幌ドームはファイターズに対する “嫌がらせ” を続けて来ました。そのため、ファイターズが “報復” に出ることが可能であることを甘く見るべきではありません。

 「ファイターズ球団の保護地域での開催は認められない」と難色を示したり、「開催したいのであれば、所定の金額を支払うことが条件」と “注文” を付けることが可能だからです。これをやられると、札幌ドームの運営は一層厳しくなることを自覚する必要があるでしょう。

 

 札幌ドームの苦境は自業自得の面が色濃く現れています。殿様商売を続けてきたツケを払うことは避けられないと予想されるだけに「損切り」も検討する必要があると言えるのではないでしょうか。