業績好調とメディアが伝えるニューヨーク・タイムズは紙面版の販売部数を年5%強で減少中

 テレビ朝日などが「ニューヨーク・タイムズ紙が業績を大きく伸ばした」と報じています。

 確かに、発表された売上高は前年比を上回っています。しかし、(株主に帰属する)当期純利益は前年を大きく下回っており、手放しに称賛できる状況ではないと言えるでしょう。

 

 アメリカのトランプ大統領から「偽ニュース」などと度々、批判を受けてきたニューヨーク・タイムズ紙が業績を大きく伸ばしました。

 ニューヨーク・タイムズが8日に発表した2017年の年間の売上高は前の年より8%増え、約1800億円になりました。特にネットビジネスが好調で、電子版の購読契約の売上高は46%の伸びとなりました。一方で、不振が続く紙媒体の広告収入は14%減少しました。

 日本のメディアが紹介するのは「ニューヨーク・タイムズが発表した内容」を要約したものです。

 そのため、ニューヨーク・タイムズ社の株価を下落させるようなネガティブな要素には触れていないという事情があることを踏まえておく必要があると言えるでしょう。なぜなら、紙面版の凋落に歯止めがかかっておらず、この事実がひた隠しにされているからです。

 

1:ニューヨーク・タイムズの決算(2017年)

 ニューヨーク・タイムズ社が発表した2017年の決算内容は以下のとおりです。

表1:ニューヨークタイムズの決算【単位:千ユーロ】
年度 変化量
項目 2017 2016
購読収入
〔電子版のみ〕
989,978
〔333,287〕
880,543
〔232,828〕
+12.4%
〔+43.1%〕


紙版 316,000 371,980 -15.0%
電子版 232,692 208,752 +11.5%
全体 548,692 580,732 -5.5%
その他 108,097 94,067 +14.9%
売上高 1,675,639
(≒ 1829億円)
1,555,342
(≒ 1698億円)
+7.7%
事業費 1,488,131 1,410,910 +5.5%
年金決済費 102,109 21,294
営業損益 112,366 101,604 +10.6%
税引き前損益 111,224 30,526
当期損益 6,837 23,832 -71.3%
株主に帰属する当期純利益 4,296
(≒ 4億7千万円)
29,068
(≒ 32億円)
-85.2%

 一部で「年金関係で当期純利益が減少した」と報じられましたが、これは誤りです。“年金関連を処理した後の営業損益は前年度を上回っています。

 昨年度はJV損益がマイナスだったため、税引き前損益が少ない状況でした。本年度は税引き前損益で前年を上回ったものの、税金を収めた後の当期純利益は大きく数字を落としています。

 そのため、今後は「本業で収益体質を維持することができるのか」が注目点になるでしょう。

 

2:部数の下落に歯止めをかけられていないニューヨーク・タイムズ

 躍進を見せている電子版(有料)の契約者数は繰り返しメディアで紹介されていますが、紙面版の販売部数を知っている人はほとんどいないでしょう。なぜなら、年 5% を超える値で部数を減らしているからです。

表2:ニューヨークタイムズの販売部数
  紙面版
(平日:月〜金)
電子版
2014年
(12月28日)
648,900 910,000
2015年
(12月27日)
603,700
(前年比:- 6.97%)
1,094,000
2016年
(12月25日)
571,500
(前年比:- 5.33%)
1,853,000
2017年
(12月末)
約223万人

 ニューヨーク・タイムズ社が発表している年次レポートには年度末での販売部数が記されています。2016年12月時点でのニューヨーク・タイムズの販売部数は約57万部。ここ2年は年 5% を超える下落率を記録しています。

 この数字は日本で部数の減少が進む朝日新聞(約 2% 強)の倍に該当するものです。「業績を伸ばしている」と手放しで称賛することは間違いがあると言えるでしょう。

 

3:「60万人弱の紙面版読者」が「200万人弱の有料電子版読者」より経営に貢献しているという現実

 『紙面版』と『電子版』が経営(売上高)にどれだけ寄与しているかを確認すると、以下の数字が浮き彫りになります。

  • 紙面版
    • 読者:57万1500人
    • 購読収入:6億4771万ドル
    • 広告収入:3億7198万ドル
  • 電子版
    • 読者:185万3000人
    • 購読収入:2億3282万ドル
    • 広告収入:2億875万ドル

 2016年の数字では約60万人の紙面版読者が10億ドル、約185万人の電子版読者が5億ドルの売上高となっているのです。

 紙面版の読者数は減少の一途を辿っています。購読収入は減少するでしょうし、読者数が減少するのであれば広告単価も下がります。電子版では読者数(≒ アクセス数)が増えても、広告単価が上がる保証はありません。そのため、電子版に過度に依存するビジネスモデルにはリスクがあると言えるのではないでしょうか。