ヘリウムの安定供給に不安を覚えた学会が懸念を示す緊急声明を発表する事態となる

 NHK によりますと、工業製品の製造から研究開発までの様々な分野で利用されているヘリウムの供給量が減少していることに対し、関係する学会が「ヘリウムの安定供給を求める緊急声明」を発表して国に対応を求めているとのことです。

 この問題は過去に発生することが懸念されていた事案です。そのため、政府が当時から指摘されていた問題への対応策を上手く講じていたかを確認することが重要と言えるでしょう。

 

 世界の生産量のおよそ6割を占めるアメリカが、ヘリウムの輸出を去年から減らしていて、日本のヘリウムの輸入価格は10年前のおよそ3倍になっています。

 ヘリウムの輸入会社は、医療機関や工業製品のメーカーには優先的に供給していますが、研究開発用はすで不足していて、一部の研究が行えなくなるなど影響が出ています。

 このため、日本物理学会などの関係する学会は、このままでは研究開発が進まなくなるだけではなく、製造現場や医療にも大きな影響を与えるとして、緊急声明を出してヘリウムの安定供給に国をあげて取り組むよう訴えることにしています。

 

「ヘリウムの供給不安問題」は2015年の時点で指摘済

 ヘリウムの安定供給に問題が生じる懸念があることは2015年2月にみずほ情報総研の調査レポート(PDF)で指摘されています。

画像:ヘリウムの生産量

 2013年までは「アメリカ・土地管理局(BLM)」が国家備蓄を払い出しており、生産量の 30% 弱を占めていました。しかし、2014年以降は払い出しの量が減少に転じ、その分をカタールが埋める(ことになるだろう)と見られていました。

 それに伴い、アメリカからのヘリウムの輸出量も2014年から減少すると予想されていました。2020年の輸出量は「2014年時点の半分」と見積もられていたのですから、その対策が適切に講じられているのかは議論の対象にする必要があると言えるでしょう。

 

ヘリウムの使用用途は多岐にわたる

 関係する学会が安定供給に懸念を示す緊急声明を発表した理由は「用途が多岐に渡るから」でしょう。風船やパーティーグッズとして利用されるヘリウムガスが世間一般に知られていますが、実際には以下のように様々な場面で利用されているのです。

画像:日本国内でのヘリウムの需要先

 ヘリウムは MRI、光ファイバー、半導体などの最新機器を製造する上で欠かせない物質であり、供給に不安が生じると大きな影響が出ることは避けられません。

 だから、2015年の時点で「ヘリウムの供給逼迫に懸念を示す分析レポート」が公表されていたのでしょう。その中では対策例にも言及されていますが、効果が芳しくない可能性があります。だから、学会が緊急声明を出す事態に至ったと考えることもできるからです。

 

ヘリウムの供給逼迫に対して提案されていた対策案

 ヘリウムの供給に問題が生じるのは「生産方法が限られているから」です。具体的には「ヘリウムを含有する天然ガス田から採取する」が確立されている唯一の方法であり、代替策がないことが問題となっています。

 そのため、ヘリウムの含有が期待できる天然ガス田を持つ国との関係強化や権益確保が対策となっているのです。

画像:ヘリウムの供給逼迫への対策案

 供給面に議論の的を絞るなら、カタールやロシアとの外交関係が極めて重要になります。ただ、どちらの国も「アメリカとの関係」は微妙なところがあり、関係性を強化するにしてもバランスを意識する必要があると言えるでしょう。

 また、ヘリウムの供給不足問題に直面しているのは日本だけではありません。ほとんどの国が「輸入する側」なのですから、ヘリウムの輸出量が減少するほど市場で争奪戦が起きることは避けようがないからです。

 

 備蓄によって供給不足に陥ることをある程度は回避できるでしょう。しかし、根本的な問題解決策にならないことは事実です。

 多くの国がヘリウムの購入先をアメリカからカタールやロシアに切り替えることが想定されるため、その動きだけでは不十分となる可能性が高いからです。したがって、ヘリウムの消費量を抑えるための代替策の開発にも予算を回すことが重要になると言えるのではないでしょうか。