「被害者や遺族の匿名希望を無視した実名公表を行うマスコミや警察」は是正の対象となるべき、京アニ事件での古屋圭司議員の “介入” は適切だ

 京都新聞と Yahoo! などがタッグを組み、「京都アニメーションで発生した事件で(遺族の要望を無視する形で)の実名報道を行ったことは正当」と主張する記事を掲載しています。

 自民・古屋圭司議員からの “介入” があったとの不満を述べ、被害者アピールに熱心ですが、世間がマスコミの主張を支持することはないでしょう。なぜなら、マスコミや警察は(被害者や)遺族の匿名要望を無視して実名公表に踏み切ったからです。

 事件や事故の被害者の氏名は裁判の場で明らかになるケースがほとんどなのですから、発生時の段階で被害者や遺族の匿名希望を無視してまで実名で伝える意味はありません。この点に対する何らかのペナルティーを科す必要があると言わざるを得ないでしょう。

 

 古屋衆院議員は報道陣に「菅義偉官房長官に『警察は遺族の了解を得ない限り、葬儀が終わるまで実名公表は控えてほしい』と要望していた」などと、首相官邸に働きかけていたことを明かした。警察庁からも「実名公表については一定期間ということで、十二分に配慮した」との趣旨の報告を受けたと語った。どう異例なのか。

 京都府警は従来、殺人や交通死亡事故が起きると、記者クラブ加盟社に対し、犠牲者名を速やかに情報提供してきた。遺族が公表を拒んだ場合、加盟社への提供資料の紙に「ご遺族は匿名を希望されています」と書き添えてある。

 

遺族の匿名要望を無視して利益を得ているマスコミと警察の姿勢は問題視されるべき

 京都新聞が報じた記事で注目すべきはマスコミと警察の双方が「実名報道が行われたことの責任は自分たちにはない」と開き直れることでしょう。

  • マスコミ
    • 『警察の発表内容』を報じただけ
    • 国民の『知る権利』に応えただけ
  • 警察
  • 提供資料に実名を記したが、「遺族は匿名希望」と注釈を据えている
  • 『個人のプライバシー』には最大限の配慮を払っている

 要するに、警察は「自分たちは遺族は匿名希望であることもマスコミに伝達した」と主張し、「実際に実名報道をしたのは自分たちではない」と逃げることが可能です。

 一方でマスコミは「自分たちは警察からの提供資料に記された情報を報道しただけ」と主張し、「国民の『知る権利』に応えただけ」と自己正当化を図っています。

 両者の身勝手な主張は批判されるべきですし、『被害者や遺族からの匿名要望』を無視して利益確保に走っても自分たちは不利益を被らないから無責任に暴走するのです。この部分は是正しなければならないと言わざるを得ないでしょう。

 

警察が事件をでっち上げた場合でなければ、速報や初期報道での被害者の実名は不要

 実名報道の意味があるのは「警察が事件をでっち上げた疑いがあるケース」でしょう。容疑者と被害者が共に匿名の状態で事件の概要が発表された場合、「そもそも事件は存在しているのか」という疑いが生じるからです。

 しかし、京アニで発生した事件の場合は異なります。

 まず、事件が発生したことは明らかです。そのため、でっち上げの可能性はありません。また、被害者となった人々の遺族には「事件で亡くなられたこと」が警察から通達されており、マスコミにも教える必要はありません

 これはマスコミに知らせると、被害者や遺族の方々の “平穏な日常生活” が阻害されるからです。実名報道を求める遺族の方の声に応えるのではなく、実名報道を拒む遺族の意向に反して『実名報道』に踏み切るマスコミの姿勢が批判されるのは当然でしょう。

 しかも、自分たちの取材活動によって得た『実名』を報じるのではなく、警察からの「遺族は匿名を希望しているとの注釈の付いた提供書」を基に報じているのです。反感を買うのは当たり前ですし、身勝手な論理を振りかざしているのですから、政治がルールを改善に向けて動く必要があるはずです。

 

「遺族が拒否する中で実名をマスコミに伝えた警察官は処分の対象」との規則を設けるべき

 『知る権利』を掲げるマスコミには自己責任で実名報道をする勇気はありません。もし、それがあるなら、今回のような記事が掲載されることもなかったと断言できるからです。

 「誰が被害者になったか」は記者が取材活動すれば判明することです。しかし、マスコミは警察発表を待ちます。なぜなら、誤報や名誉毀損で文句を言われた際に「自分たちは警察発表を伝えただけ」と言い訳ができるからです。

 ですから、マスコミによる遺族の要望を無視した実名報道を止めるには「警察からの発表内容に制限を設けること」が効果的となるでしょう。

 具体的には「遺族が実名公開を拒否する中で被害者の実名をマスコミに伝えた警察官は個人情報保護法違反で処分対象とする」という法的根拠や指針を政治主導で作るべきです。こうした制限があれば、「遺族は匿名を希望している」という無意味な注釈を付けただけの提供資料がマスコミに渡ることはないはずです。

 また、マスコミに情報を渡した警察官(とその上司)は監察からの処分対象となるのですから、遺族は弁護士経由で「警察の不誠実さ」を糾弾することが可能になるでしょう。

 「匿名を求める遺族の意向」を警察やマスコミが無視する形で自分たちの私服を肥やすことが問題なのです。裁判の場でも被害者の匿名が認められる事件があるのですから、その対応は事件の初期段階から適応されているべきと言えるでしょう。

 

 京都新聞のようなマスコミや記事を転載することでアクセス数を稼ごうとする Yahoo! の記者および執筆陣は “組織の影” に隠れて『実名報道の必要性』を語っているのです。これでは世間からの共感を得ることはないでしょう。

 記名記事の導入が第一歩ですし、実名報道が必要と主張する記者の実名と顔写真を公開することが前提です。「落ち着くまで実名公開は控えて欲しい」との遺族の要望すら無視し、「実名公開は正義」と勘違いしているからマスコミへの風当たりが強くなる一方なのです。

 マスコミにとっては古屋圭司議員の行動は “介入” なのでしょうが、世間一般の視点では「妥当」と評価されると思われます。

 被害者の実名を事件発生直後に公開することで得られるメリットの大部分をマスコミが享受します。被害者自身や遺族から匿名の要望がある場合は司法の舞台に移るまでは自重させる仕組みが必要と言えるのではないでしょうか。