パンデミック発生時に「医薬品(= ワクチン)不足」は多くの国が想定していたが、「医療用具類不足」はどの国も想定外だった

 NHK によりますと、医療用フェースシールドなどの産業用ゴーグルを製造する山本光学(本社・大阪府東大阪市)が大規模増産に乗り出すとのことです。

 現場が「その場しのぎ」の状態となっている上、粗悪品や模造品も氾濫しているため、品質が保証されている正規品の流通量が増えることは歓迎すべき点です。

 「医療用具類の不足」はどの国でも想定外でしたから、新型コロナウイルス騒動が落ち着いた後に体制を見直す必要があるでしょう。

 

 産業用ゴーグルの国内最大手で、東大阪市に本社がある「山本光学」は、政府からの打診を受けて大規模な増産に乗り出すことになりました。

 地元の金型メーカーや材料メーカーなどの協力を得て増産する体制が整い、来月からの4か月間で、従来から生産・販売しているフェイスシールド、ゴーグル、保護メガネ、合わせて100万個以上を増産する計画です。

 感染の拡大に伴って粗悪品や模倣品も流通しているということで、経済産業省では国内の有力メーカーが大幅な増産に乗り出すことで品薄の緩和につながると期待しています。

 

突発的な大幅増産の要望に応えられる企業はまず存在しない

 製品はデジタルデータではありませんから、製造には時間を要します

 新型コロナウイルスの対応に当たっている現場から「医療用のフェイスシールドやゴーグルが足りない」との要望があっても、すぐに需要を満たすことはできません。なぜなら、供給量には上限があるからです。

 製造ラインの稼働率が低い状態であれば、100% にまで引き上げれば生産量は増やせます。しかし、ビジネスである以上は「収益性」を念頭に置かざるを得ないため、稼働率は 100% に近い状態が保たれていることでしょう。

 そのため、突発的な増産要望に応えるには「新たなに製造ラインを新設すること」が実質的に要求されます。だから、市場に製品が供給されるまでの間は「一時的な品薄状態」が起きてしまうのです。

 

「製造ライン」で必要となる『金型』や『材料』を確保しないと、増産はできない

 しかも厄介なことに「製造ライン」を新設するには以下のハードルをすべてクリアする必要があります。

  1. 製造ラインを新設する場所(またはスペース)は用意されているのか?
  2. 『金型』は確保済みか?
  3. 『材料』は確保済みか?

 まずは「場所(もしくはスペース)」です。医療現場で使うのですから、衛生面に配慮されたクリーンルームで製造する必要があるでしょう。そこに『製造ライン』を “新設” するため、設置スペースがあることが前提になります。

 「設置用のスペースがある」ということは「普段は使っていないスペース」という意味でもあるため、簡単に用意できる企業は少ないと思われます。

 また、スペースを確保できても『金型』や『材料』を確保しないと製造工程に入ることはできません。“『金型』を製造するための時間” が製造ラインを稼動させるための準備として必須であり、こうした部分にも留意した上で論評をする必要があるでしょう。

 

『(日本国内における)医療用具類の製造体制』にも何らかのインセンティブを設けるべきでは?

 今回の新型コロナウイルス問題ではほとんどの国が「防疫体制の不備」を何らかの形で突かれる結果となっています。その中でどの国にも共通して言えるのは「医療用具類(マスク、ゴーグル、ガウン)の不足を想定していなかった」という点でしょう。

 なぜなら、どの国も「鳥インフルエンザウイルス蔓延時のワクチン供給体制」に重点を置いた議論に基づく対策を採っていたからです。(ワクチンを誰から優先的に接種するかなど)

 もちろん、「マスク・ゴーグル・ガウン類の確保」も対策には含まれていますが、新型コロナでは「想定をはるかに上回る消費量」となり、品不足が深刻となっています。

 難を逃れたのは「たまたま製造拠点があった国」であり、防疫政策による備蓄で回避に成功した国は「ない」と言えるでしょう。

 したがって、今後の対策としては「緊急時に医療用具類を国内で製造できる体制を準備しておくこと」が基本路線になります。

 生産設備を保持するのは民間企業ですから、「協力の意思を事前に表明し、転用可能な状態を維持している場合は税制上の優遇措置を受けられる」という形のインセンティブを検討すべきと思われます。

 

 ただ、範囲が厚労省(衛生面)・経産省(経済面)、財務省(税制面)と複数に及びますから、政治が音頭を取る必要があります。政府与党が提案する法案に張り合えないなら、野党は「議論すべきテーマと方向性」だけでも示すべきと言えるのではないでしょうか。