国民生活センターが格安スマホ事業者(= MVNO)に「手厚いサポート」を要求、ビジネスの根幹である『格安』を揺らし始める

 NHK によりますと、国民生活センターが『格安スマホ』についての相談が全国の消費生活センターに寄せられていることを受け、業界団体に「より一層の丁寧な説明」を要望したとのことです。

 この要望はナンセンスと言わざるを得ません。なぜなら、格安スマホ事業者(= MVNO)は「手厚いサポート」を削ることで『格安』を実現してきたからです。

 ビジネスモデルを否定する結果となっているのですから、「国民生活センターは大手携帯会社の回し者」と揶揄されても止むを得ないでしょう。

 

 国民生活センターによりますと、格安スマホをめぐって全国の消費生活センターなどに寄せられた相談は、平成29年度以降、毎年2000件を超えていて、このうち60歳以上の割合が年々増え、今年度は35%を超えているということです。

 具体的には、無料通話には専用のアプリを使う必要があることを知らなかったため、高額な請求を受けたといった相談や、使い方を問い合わせたいのに店舗でサポートが受けられないなどの相談が寄せられているということです。

 国民生活センターでは、格安スマホを利用する際にはサービス内容をよく理解したうえで、契約するよう注意を呼びかけているほか、業界団体に対しても高齢者を中心に丁寧な説明と可能なかぎりのサポートをするよう要望しています。

 

MVNO が『格安』で通信サービスが提供できる理由は「業務の一部有償化」でコスト削減をしているから

 MVNO(= 格安スマホ事業者)がドコモ・au・ソフトバンクに比べて『格安』で携帯通信サービスが提供できる理由は「LCC (= 格安航空会社)と同じビジネスモデルを採用しているから」です。

 ANA や JAL などの従来型の航空会社は『フルサービスキャリア』と呼ばれるほど、提供するサービスは可能な限り多岐に渡っています。このビジネスの問題点は「使っていないサービスの料金も支払わなければならない」というものであり、料金が高止まりする原因の1つとなっていました。

 そこで “必要性の高いサービス” を絞った LCC が誕生したのです。最初から提供されるサービスが限定されているのですから、基本料金は低く抑えられます。その一方で足りないサービスは追加料金を支払う形が採用されています。

 この航空業界で起きている市場競争が携帯通信会社でも起きているだけなのです。携帯の『フルサービスキャリア』はドコモ・au・ソフトバンクの3社です。楽天もこちらへの参入を表明していますから、いずれは4社となるでしょう。

 それ以外は LCC に該当するMVNO(= 格安スマホ事業者)です。MVNO に『フルサービスキャリア』と同等の手厚いサポートを要求したところで拒否されることは避けられないと言えるでしょう。

 

「丁寧な説明」と「可能な限りのサポート」を行うには『人件費』というコストが必要となる

 国民生活センターからの要望を真摯に聞き入れる MVNO は少ないと思われます。なぜなら、要望を踏まえるほど人件費(= コスト)が増加し、『格安スマホ』を提供することが困難になるからです。

 大手の携帯通信会社が “無料で” 利用者からの「使い方の相談」などに応じてくれる理由は「対応に当たる人員のコストが料金に最初から含まれているから」です。契約者全員が事前に費用負担をしているから利用者には無料に見えるだけです。

 しかし、MVNO はそうしたビジネスモデルではありません。

 通話は『無料で行える専用アプリ』ですることが前提ですし、「使い方の相談」は利用者が “個別に” 料金を支払う形だから、使い方次第で利用料が大きく引き下げることが可能なサービスなのです。

 大手の携帯通信会社が提供するサービス水準と全く同じものを格安の料金で提供することは不可能です。これができるなら、そのサービスを導入した大手携帯会社が市場を独占しているはずだからです。

 MVNO にフルサービスを要求するなら、「ドコモ・au・ソフトバンクのいずれかと契約すべき」と返されるだけでしょう。それだけ国民生活センターの要望は本筋から外れているのです。

 

国民生活センターの「仕事をしてますアピール」に過ぎない要望で MVNO の躍進が止まるなら、大手携帯会社は笑いが止まらない

 消費生活センターに「相談」が相次いでいるなら、国民生活センターは「仕事してますアピール」をすることでしょう。『格安スマホ』に対する “要望” もその一環であると考えられます。

 要望は企業側に聞き流される可能性はありますが、国民生活センターが困ることにはなりません。なぜなら、国民生活センターは「現時点でできる最大限のことはした」と主張できるからです。

 違法行為をしている訳ではない民間企業のビジネスモデルに行政が “介入” することは論外です。介入する法的根拠はない訳ですし、『フルサービス』の提供を求めるなら既存の大手携帯会社と契約すれば良いだけのことです。

 企業側は「大手携帯会社の『フルサービス』を『格安』で提供せよ」との消費者の要求を拒絶する権利がある訳ですから、国民生活センターを介した要望も聞き流すことになるでしょう。要望に忖度する企業が現れれば、市場での競争力が落ちるため、大手携帯会社は笑いが止まらなくなるはずです。

 ボランティアの名目で他人の善意にタダ乗りすることが当たり前となっている社会情勢では「労働者が正当な対価」を得ることが困難になります。そうした論調については批判の声を上げ、正当な対価が得られる重要性を説き続けることが重要と言えるのではないでしょうか。