EU 側が自動車の関税撤廃を拒むなら、経済連携協定(EPA)の締結を急ぐ必要はない

 EU との間で交渉が行われている経済連携協定(= EPA)を巡り、通商交渉を担当するマルムストローム委員が詰めの協議を行う考えがあることを示したと NHK が伝えています。

 日本側はチーズの関税撤廃に、EU 側は自動車の関税撤廃に難色を示していると伝えられています。もし、EU 側が日本からの自動車にかけている関税撤廃を遅らせるのであれば、交渉締結を急ぐ必要はないと言えるでしょう。

 

 日本とEU=ヨーロッパ連合が進めているEPA=経済連携協定の交渉について、EUの通商政策を担当する高官は近く大枠合意に達することに期待を示したうえで、必要であれば今週、日本を訪れて詰めの協議を行う考えを示しました。

 (中略)

 東京を訪問中のペトリチオーネ首席交渉官に必要なだけ東京にとどまって交渉を終えるよう指示したことを明らかにするとともに、「必要であれば今週、日本を訪れる用意がある」と述べました。

 一方で、「準備が整わなければ大枠合意はもう少し待つ必要があるだろう」とも述べ、依然として双方の意見の隔たりが小さくないことを示唆しました。

 

 「経済連携協定を締結したい」という希望は両者の共通点と言えるでしょう。しかし、守りたい自国産業があるため、その妥協点を探っていることが現状です。

 自分たちだけが譲歩したとなれば、反発を招くことになりますのでどの点で折り合いが付くのかが注目点です。

 

 ほとんどの経済連携協定では影響(または恩恵)を受けるのは特定の業界です。EPA との場合はチーズなどの乳製品を扱う酪農関係が最も影響を受け、自動車業界が関税撤廃という形で大きな恩恵を受けることになるでしょう。

 ただ、EU との EPA は多くの一般人が影響を受ける可能性があります。

 それは EU 側が「鉄道車両の国際入札」を希望しており、それを日本側が容認すると考えられるからです。JR や私鉄が使用する鉄道車両は日本製のものがほとんどです。

 しかし、鉄道会社の要求水準を満たさないポンコツを強制的に導入されると、朝・夕のラッシュ時に鉄道網がマヒする結果となります。その損害を被るのは多くの鉄道利用者なのです。この点は覚えておく必要があることでしょう。

 

 「日本市場で国内メーカーが強いのは関税で守られているから」という主張はすべての分野で通用するロジックではありません。

 その国・地域での独自の価値観に対応したメーカーが結果的にシェアを拡大しただけなのです。欧米基準がそのまま通用するほどビジネスシーンは甘くはないことを認識しなければなりません。もし、通用すると勘違いしているなら、それを自覚させなければならないのです。

 相手に譲歩するだけでは市場を差し出していることと同じです。すでに開かれている分野に難癖を付けられる筋合いはありませんし、相手側が関税で守っている分野を解放しない限り、こちらも譲歩する気はないというスタンスで臨む必要があります。

 

 関税という形で極端な参入障壁に守られている業界については徐々に障壁が取り払われていくことが本来の姿と言えるでしょう。なぜなら、国内だけでなく、ブランド化することで付加価値を高め、国外市場でも売り上げを伸ばしてもらう必要があるからです。

 他の地域で簡単に真似されていまう商品を高い関税で守るということは結果的に消費者が損をすることになるのです。そのことを踏まえて、行政側は政策を決める必要があるのではないでしょうか。