医療保険無加入の外国人が救われた話は美談ではなく、日本の医療制度へのタダ乗りである

 タイ人のワンウィサ・ジャイジュンさんが旅行保険に加入しない状態で来日中に倒れ、日本で手術・治療を受けて回復したことを朝日新聞が伝えています。

 “美談” として伝えられていますが、「美談に要した費用」という観点が完全に抜け落ちていることが問題でしょう。なぜなら、このタイ人女性が医療費を払いきれなかった時点で他の保険利用者や保険組合が肩代わりすることになるからです。

 

 外国人の訪日観光客が急増するなか、旅行保険に加入せずに入国し、けがや病気でかかった多額の医療費を自費でまかなわなければならないケースが相次いでいる。タイの女性は急病になり奇跡的に命をとりとめたが、手術などで治療費は約1800万円に。「一生かかっても払う」と言うが、返済のめどは立っていない。

 (中略)

 全身の臓器に十分な血液を送れない「虚血性心不全」と、不整脈が続く「心室頻拍」を併発していた。

 大井医師らは人工心肺装置で生命維持をしながら、冠動脈のバイパス手術など、約10日間で5回にわたる手術や治療を施した。その結果、ワンウィサさんは2月中旬、意識を取り戻し、快復に向かった。

 だが、治療費は約1800万円に。旅行保険に入っておらず、母親のスープンさん(60)は頭を抱えた。タイ国内で友人が呼びかけた募金に500人以上が応じたが、集まったのは50万バーツ(約150万円)。在日タイ大使館が約800万円分を立て替えているが、完済にはほど遠い。

 在日タイ大使館によると、来日したタイ人観光客の保険加入率は1割程度とみられるという。

 

 

1:美談として日本国外に伝わると、「旅行保険に無加入でも大丈夫」との間違ったメッセージが送られる

 命を取り留めたタイ人女性のケースですが、美談として伝わることによるメリットはありません。「良いことをした」と自己満足できる程度でしょう。

 なぜなら、以下のようなことが起きるからです。

  1. 旅行保険に入っておらず、多額の医療費を請求された
  2. 結果的に患者本人が支払わずに済んだ(=美談)
  3. 「なら、私も大丈夫」と保険に加入せず日本旅行をする外国人が増加
    → 病院が代金を回収できず、日本の医療保険にしわ寄せが起きる

 「旅行保険に入っていなかったので、払いきれない多額の医療請求を受けた」という話を耳にすれば、保険制度の利用に踏み切ることでしょう。しかし、「旅行保険に加入していなかったが、多額の支払いは免れた」というエピソードが “美談” として広がれば、厄介なことが起きることは容易に想像できます。

 「なぜ、自分の場合は無料にならない(もしくは免除されないのか)」と逆ギレする外国人を大量に生み出す要因になるからです。少なくとも、本人への支払い義務は絶対に免除してはならないと言えるでしょう。

 

2:朝日新聞がタイの現地支局員として正社員雇用し、“美談” を締めくくるべきだ

 タイ人女性、ワンウィサ・ジャイジュンさんのケースですが、美談として締めくくることは難しいでしょう。なぜなら、金銭的な支払いの見通しが立っていないからです。

  • 治療費:1800万円
  • 支払いの目処:
    • 友人からの寄付:150万円
    • タイ大使館の建て替え分:800万円

 10% 未満しか支払うことができていない現状はどう見ても苦しいと言えるでしょう。しかし、打って付けの解決策が存在します。

 それは朝日新聞(またはテレビ朝日)がワンウィサ・ジャイジュンさんを正社員として採用し、タイの現地特派員という形で雇用するというものです。給与水準を日本のベースにすれば、高給であるため、1800万円の支払いは容易に行うことができます。

 テレビ朝日は過去にタイでバンコク支局長が下半身を露出した画像を同僚に送りつけるという前代未聞の大失態をやらかしています。その贖罪の意味も含め、“美談” の締めくくりをする絶好の機会を手にしているのです。

 

3:現役世代の重荷となっている社会保障費に外国人をタダ乗りさせるな

 所定の保険料を支払っている外国人が医療保険制度で認められた権利を行使することには何の問題もありません。問題なのは、「保険料を支払っていない外国人への対応」です。

 タダ乗りを認めれば、損をするのは真面目に保険料を支払っている人々です。医療ビザで来日せず、投資家ビザで来日し、日本の医療制度に “タダ乗り” できている現行制度は是正する必要があります。

 そうしたことを鑑みても、タイ人女性が受けた医療サービスに対する代金を支払ていない状況を “美談” として報じることは不適切と言えるのではないでしょうか。