新幹線の台車破損事故:JR西が採るべき対応は社員教育だけでなく、運転打ち切りが可能なダイヤ編成とバックアップ体制だ

 博多発東京行きの新幹線「のぞみ34号」の台車に亀裂が見つかった事故で、検査や運行体制で見直すべき点が洗い出されています。

 詳細は原因は運輸安全委員会の調査待ちとなるでしょう。それを踏まえた対策を講じるとともに、マズい対応をしてしまった JR 西日本は社員教育だけではなく、「運転打ち切り」を前提にした “組織としてバックアップ体制” が必要と言えるでしょう。

 

1:「のぞみ34号」で使用された車両に関する事故当日の出来事

 台車に亀裂が見つかった「のぞみ34号」で使用された車両に関する事故当日(12月11日)の出来事は次のとおりです。

午前2時頃
車両基地
東京にある車両所で JR 東海の担当者が目視点検。異常は発見されず
13:33
(博多駅)
「のぞみ34号」が東京駅に向け出発
13:50
(小倉駅)
「のぞみ34号」が小倉駅を出発。出発時に乗務員が「焦げた臭いがする」と報告
15:16
(岡山駅)
保守担当者が岡山駅で乗り込み、「のぞみ34号」は出発。次の駅(=新神戸)で止めて点検するように提案が出る
16:01
(新大阪駅)
保守担当者が下車。担当乗務員が JR 西から JR 東海に引き継がれる。「異常なし」と報告
16:53
(名古屋駅)
車両の床下で油漏れと亀裂を発見。走行不可能と判断し、運転打ち切り

 死傷者が出なかったことは不幸中の幸いですが、大事故の一歩手前だったことは否定できません。また、大事になる前の段階でリスク管理が可能と言える案件であると見ることもできますので、同様の問題が起きた際にスムーズに動けるような体制を構築することが改善策と言えるでしょう。

 

 

2:JR 西日本の問題は「保守担当者からの提言を活かせなかったこと」

 JR 西日本の対応ですが、岡山駅で保守担当者が乗り込んだまでは問題ないでしょう。おそらく、大阪にいた保安担当者が小倉駅出発時の乗務員からの一報を受けて岡山駅で待っていたと考えられるからです。

 また、「次の駅で点検を行うべき」と提言し、保守担当者に期待される役割を果たしていることは評価する必要があります。

 しかし、ここで問題となるのは「のぞみ34号」の次の停車駅が新神戸駅だったことでしょう。新神戸駅は「相対式ホーム2面2線」であり、停車点検を新神戸でしてしまうと、山陽新幹線(の全線)が止まるという事態を招くことになるのです。

 現場の判断で止めると、東海道新幹線にも影響が生じます。“現場が守られる体制” が構築・運用されていない限り、「列車の運行を止めるべきだが、止められない」というジレンマは続くことになるでしょう。

 

3:新大阪駅で運転打ち切りが可能となるダイヤ・運行体制を構築すべきだ

 今回は「上り列車」だったため、JR 西日本の初期対応のマズさが浮き彫りとなっています。これが「下り列車」だった場合は「JR 東海は問題を最小化できる体制だったのか」が問われることになるのです。

  1. 事故
  2. 立ち往生
    1. 駅間の区間

 事故を避けることが最重要ですが、次に問題となるのは立ち往生です。そのため、走行不能になる可能性が生じた車両をどのタイミングで見切りを付けるのかが最大の問題と言えるでしょう。

 

 結果論の要素が強くなるのですが、JR 西日本は「新大阪駅で当該列車の運転を打ち切る決断ができなかったこと」が事態を悪化させてしまいました。

画像:新大阪駅の新幹線ホーム

 ホームが8つ持つ新大阪駅は年末年始や GW の最ピーク時を除き、車両点検を実施する余裕のある珍しい駅です。

 そのため、「車両に不具合が生じている可能性があるため、新大阪駅で運転を打ち切る」とアナウンスし、続けて「現在乗車中のお客様は新大阪駅発の臨時列車に振り替えます」と宣言できる余力も備わっていると言えるでしょう。

 すべての主要駅でそうした対応は非現実的ですが、新大阪駅は例外的に運転打ち切りと振り替えを円滑にできるポテンシャルがあります。社員教育も大事なことですが、「運転打ち切りと振り替え」に現場が踏み切りやすい体制を構築することも組織として重要と言えるはずです。

 

 速くて便利な新幹線ですが、安全でなければ元も子もありません。JR 東海は検査体制の見直しにも言及していますが、今後示される事故の調査報告を走行中に起きたトラブルについても対応ができる運行体制に活かして欲しいと思います。