保育園の騒音賠償が最高裁で棄却、「保育園の新設」はハードルが極めて高くなった
「園庭で遊ぶ園児の声がうるさい」と慰謝料および防音設備の設置を求めていた訴訟で原告の敗訴が最高裁で確定したと朝日新聞が伝えています。
子育てに理解を示す論調の人々は「当然の判決」と受け止めていることでしょう。しかし、原告の主張が認められないことが裁判で明らかになったことで、「保育園の新設」は絶望的にまでハードルが上がったことを意味していることを見落としている現実があります。
「園庭で遊んでいる園児の声がうるさい」として、神戸市の男性が近隣の保育園を相手取り、慰謝料100万円と防音設備の設置を求めた訴訟の上告審で、男性の敗訴が確定した。最高裁第三小法廷(木内道祥裁判長)が19日付の決定で、男性の上告を退けた。
(中略)
7月の二審・大阪高裁判決は、園児が遊ぶ声は「一般に不規則かつ大幅に変動し、衝撃性が高いうえに高音だが、不愉快と感じる人もいれば、健全な発育を感じてほほえましいと言う人もいる」と指摘。公共性の高い施設の騒音は、反社会性が低いと判断し、一審判決を支持した。
ネット上で “出羽守” と揶揄されている人は「勝利宣言」をしていることでしょう。ドイツなどでは「公共性の高い施設の騒音は、反社会性が低い」との判例があり、「日本もようやく追いついた」と上から目線で評価していると思われるからです。
ただ、今回の判例による弊害が本格化するのはこれからが本番なのです。
1:「保証や賠償がされない施設の新設」を周辺住民が理解するのか
今回、最高裁は「公共性の高い施設の騒音は反社会性が低く、賠償に値しない」と判断しました。つまり、保育園側は賠償も、防音設備の設置も負担しなくて良いとの根拠を得たのです。
保育園や利用者にとっては最高の判決でしょう。しかし、周辺住民にとっては最悪です。なぜなら、マイナス面を強制的に押し付けられるからです。
「騒音の問題での保証はなし」と最高裁が判断を下しました。また、交通問題でも同様の判断が示されることになるでしょう。つまり、「保証はしないが、公共性が高いのだから我慢しろ」と言っているのです。
この実態が明るみに出た以上、『保育園の新設』は完全に暗礁に乗り上げるはずです。待機児童対策として、『保育園の新設』は欠かせません。しかし、「保証も賠償もする必要はない」との判決が出ている騒音を出す施設の新設に理解を示す周辺住民が多数派になることはないことが普通でしょう。
2:保育園新設反対派の態度を硬化させるに十分すぎる確定判決
保育園が開園してしまえば、「周辺住民への保証は不要」との判例が出たのです。保育園新設の反対派が譲歩する余地を消すに十分すぎると言えるでしょう。
- 保育園新設には断固反対
- 自宅の防音工事を保育園側が負担しない限り、保育園新設には反対
おそらく、上記2点のどちらかを主張し、保育園の新設に反対する周辺住民が増えるはずです。そして、反対派の住民が事前に提示した条件を保育園側が受け入れない限り、賛成には回らないと交渉の余地すら残さない姿勢を鮮明にすることが予想されます。
保育園の隣接地域に居住していない “外野” が「子育ての重要性」を説いたところで、「キレイゴトを述べているだけ」と火に油を注ぐことになるでしょう。泣き寝入りを強いられることが明らかなのですから、反対派が態度を硬化させるのに十分すぎる出来事になっているのです。
とは言え、待機児童問題は “住みたい街ランキング” で上位に入る一部の都市部で起きている問題です。全国共通の問題とは言えない面があり、保育園を新設するための土地を用意することもハードルとなっている状況にあります。
その中で、最高裁が「周辺住民は我慢せよ」との判決を示した訳ですから、開園反対派はなりふり構わず反対運動を強めることになるでしょう。パンドラの箱を開ける結果になってしまったと言えるのではないでしょうか。