“機材スポーツ” であるボブスレーで性能が劣る『下町ボブスレー』が使われないのは当然の成り行きである
ジャマイカがピョンチャン五輪で『下町ボブスレー』を利用する契約だったものの、使用拒否との決断を下したことで、製作者側が損害賠償を求めると宣言する事態が起きています。
ただ、ボブスレーは “機材スポーツ” である側面が強い競技であり、朝日新聞が報じたジャマイカ側の言い分が最もと言えるでしょう。ソチ五輪で日本代表から「五輪では使用しない」との通達を受けた際と同じ問題を『下町ボブスレー』の製作陣は抱えているものと考えられます。
下町のそりについて、ストークス会長は「遅い」「安全でない」「機体検査に不合格」の3点を強調。「1月に行われた2度の機体検査に不合格だった。五輪でも失格の恐れがあった」と語る。
下町側は不合格を認めたうえで、「すぐに修正できる細かい違反だけ。一時は合格も出た。五輪には間に合う」と反論した。だが、ジャマイカ連盟は実績のある海外メーカーを選んだ。
1月の時点で機体検査に2度不合格を突きつけられている現状は大きな問題です。「すぐに修正できる」と反論していますが、“機材スポーツ” であるという点をあまりに軽視しているとしか思えない発言となっています。
1:“機材スポーツ” の一面が強いボブスレー
ボブスレーは冬季五輪の中でも “機材スポーツ” の側面が強い競技と言えるでしょう。なぜなら、選手の身体能力よりも、選手が使用する機材の性能が結果に大きく影響するからです。
- スタート:選手のスプリント(ダッシュ)力
- 直線:ボブスレーの空力性能
- カーブ:操作性能と選手の操作テクニック
スタートで若干出遅れた程度では致命的にならないはずです。ボブスレーで滑降する区間で最速タイムを出した選手(やチーム)がメダルを手にすることができないなら、“そりを使った滑降競技” という本質から外れることになるからです。
そのため、機材性能で劣るボブスレーのそりを使うことは競技をする上で大きなハンデキャップとなってしまうのです。
2:選手が『完成品』を求める中、製作者は『試作品』での “バグ出し” との認識
立ち上げたばかりの企業が提供する商品が品質で劣るケースがほとんどでしょう。ただ、レギュレーション違反を軽視する姿勢は選手側が疑念を抱く原因となるです。
まず、選手は『完成品』を要求することでしょう。大会規定を満たさない機材を使えば失格となりますし、そうなればこれまでの苦労が水の泡となるからです。また、機材スポーツであるボブスレーで『本番用の機材』を使い込めないというデメリットも無視できるものではないのです。
一方、製作者サイドの認識は「大会(=オリンピック)本番当日までに機体を引き渡せれば良い」というものだったのでしょう。
これを “機材スポーツ” でやられると、迷惑以外の何物でもありません。機材を使いこなし、適応するための時間が極めて限定的になりますし、ジャマイカチームの手元にある『機材』はレギュレーション違反で失格になる恐れのある代物なのです。
オリンピックで「レギュレーション違反で失格になるリスクがある機材」を使うアスリートはまずいないでしょう。認識のズレが大きすぎたことが原因の1つであると断言できるはずです。
3:ソチ五輪の際も同様の問題が起きていた『下町ボブスレー』
『下町ボブスレー』は日本代表に機材を提供しようとしたロシア・ソチ冬季五輪の際も今回と同様の問題が発生し、不採用との通告を受け取っています。
この時は2013年10月にテストを依頼し、レギュレーション違反があることが発覚。翌11月に不採用を通告されました。その際に指摘された改善項目などは以下のとおりです。
対象 | 要望内容 | 改善案 |
---|---|---|
カウル (空気抵抗値) |
根本的見直し及び検証(ラトビア製の BTC、ドイツ製の SINGER, BMW などとの比較) | 改良後の空気抵抗は検証するが、他国のそりとの比較は今後の課題としたい |
カウル (ノーズ) |
マテリアル違反改善 | 形状を変更する |
リアバンパー | マテリアル違反改善 | 測定して確認するが、現状で問題はない |
そりの先端部に当たるカウルノーズがレギュレーション違反で形状変更が必須だった訳です。空力が問われる競技で性能面を維持しつつ形状を変更することは簡単ではありません。風洞実験などを完全にやり直す必要があるからです。
しかし、それを「基本的に軽微なもの」とインタビューで言い切ってしまうのです。規格を満たさない製品を出荷するのが大田区の品質なのでしょうか。「実際に販売されている状態と同じ」という認識が欠けていたことが原因の1つと言えるはずです。
『オリンピックで使われることが目的の機材』と『オリンピックで勝つことを目的にした機材』では差が生じることは当然と言えるでしょう。当然の結果と言われても止むを得ないのではないでしょうか。