豊洲市場の移転問題:「小池都知事自身が “詫び” を入れ、自らの構想を撤回できるか」が注目点に

 豊洲市場の移転問題で「集客施設の建設がこう着状態に陥っている」と日経新聞が報じています。

 問題が生じた原因は小池百合子・東京都知事が「築地市場の跡地に『食のテーマパーク』を作る」と宣言したことです。

 「豊洲より築地の方が都心に近くアクセスも良い訳ですから、『築地市場の跡地に作られる食のテーマパーク』に参入する方が儲けられる」と事業者が判断するのは当然と言えるでしょう。

 

 豊洲市場の集客施設「千客万来施設(千客)」の先行きに不透明感が高まっている。東京都は事業者に事業継続の是非を25日までに回答するよう求めていたが、事業者は「現段階では判断できない」とした。今後の展開次第では事業者の再公募になる可能性もくすぶる。10月の市場開場後も長期間、集客機能がない状態が続く公算が大きい。

 事業者である『万葉倶楽部』が東京都に対する不信感を抱くのは当然のことです。なぜなら、自らが公募を行った際の条件を覆したからです。

 施設建設に多額の投資をした後で “梯子を外す” ような振る舞いを都知事自らが行った訳ですから、信頼など皆無と言えるでしょう。

 

豊洲市場の集客施設をめぐる時系列

 “中央卸売市場機能” を持つ築地市場は豊洲への移転が決定していました。

 築地市場には『集客施設』である「場外市場」が存在しますが、豊洲にはそうした施設はありません。そのため、『集客施設』の設置・運営事業者が公募されることになったのです。

表:豊洲市場の集客施設をめぐる経緯
2014年2月 『喜代村』と『大和ハウス』が事業者に決定
2015年 2月に『大和ハウス』が辞退。4月に『喜代村』が辞退
2016年3月 『万葉倶楽部』が再公募で事業者に決定
2017年6月 小池都知事が「豊洲移転・築地市場の再開発」の基本方針を決定
→ 『万葉倶楽部』の態度が硬化

 「築地市場の後に同じ機能を持つ施設は設置しない」という条件が180度転換されました

 新たな経営環境下において、豊洲市場で集客施設を運営したいと考える事業者はいないでしょう。なぜなら、リスクが大きすぎるからです。

 

『(築地市場の跡地にできる)食のテーマパーク』の方が『豊洲市場の集客施設』よりも魅力的

 『万葉倶楽部』が態度を明確にしない理由は「築地市場の跡地に建設される『食のテーマパーク』の方が経営的に魅力度が大きいから」です。

  • 築地の方が都心部へのアクセスが良好
  • 豊洲にはメディアが総出で風評被害を煽った影響がある
  • その一方で、メディアは『築地』をブランド化

 築地市場の豊洲移転問題によるマスコミ報道で上記の概念が固定化されることになりました。この状況で小池都知事が掲げた「豊洲移転・築地市場の再開発」が実施されると、豊洲市場の集客施設事業者(=『万葉倶楽部』)が “貧乏くじ” を引く結果となるのです。

 築地の市場跡地にできる『食のテーマパーク』に入る方が “当たりくじ” になる可能性が極めて高い状態です。そのため、利益を確保することが不可欠である民間事業者が勝手にルールを書き換えた東京都の姿勢を批判しているのです。

 

「2017年6月以前の状態」に戻さない限り、豊洲市場の集客施設の運営に名乗りをあげる企業はないだろう

 『万葉倶楽部』が要求しているのは「小池都知事が築地市場再開発を発表する前の状態に戻すこと」と「都知事の謝罪」です。

 要求内容は妥当なものですし、東京都の姿勢を見極めてから態度を表明したとしても批判を招くようなことにはならないでしょう。それだけ、豊洲市場の集客施設を取り巻く経営環境は厳しいと言えるからです。

 東京都から良い条件を引き出せそうにないなら、『万葉倶楽部』は最終的に撤退を表明し、損害賠償を求めて東京都を提訴すれば良いのです。

 また、引き伸ばし策を採るのであれば、「築地市場跡地の『食のテーマパーク』への参入を確約してくれれば、豊洲市場の態度を表明する」と言えば良いでしょう。

 公募時の条件を平気で覆す自治体の案件に携わりたいと考える企業は極めて限定されるでしょう。「再々公募に応じる企業がある」とは考えられず、厳しい立場にいるのは小池都知事だと言えるのではないでしょうか。