軽減税率の導入を要求する新聞業界が「書籍・雑誌にも軽減税率を適用せよ」と要求

 新聞各社は「軽減税率の導入」を要求していますが、各社が加入する『新聞協会』が「書籍・雑誌への軽減税率の適用」を陳情したと報告しています。

 この動きには問題があります。出版業界への利益供与になる上、軽減税率の対象は「利益を享受する団体側の裁量で決める」と主張しているからです。これは問題と言えるでしょう。

 

 新聞協会の白石興二郎会長(読売)は6月11日、活字文化議員連盟の総会に出席した。来年10月の消費税率引き上げとともに予定される新聞への軽減税率導入について、確実な実行と即売や電子新聞、書籍・雑誌への適用を求めた。出版界は軽減税率の対象図書を区別する自主管理団体の設立を表明。議連はこれを評価し、新聞とともに書籍・雑誌への適用を求める活動方針を採択した。

 (中略)

 書籍出版協会の相賀昌宏理事長は、増税による価格上昇は新刊発行や書店数、出版社や作家への還元が減り「知的、文化的環境が衰退する」と指摘した。流通コードを管理する自主管理団体の下に第三者委員会を設置し、有害図書の排除に努めると述べた。

 なぜ、新聞だけが優遇されるのでしょうか。軽減税率の適用を求めるのであれば、それだけの価値があることが必須です。

 “知識” を理由にするのであれば、ウェブサイトも同様の恩恵を与えなければなりません。なぜなら、海外発のニュースはほぼインターネット経由で誰もが入手しており、紙面・書籍だけが唯一の手段ではないからです。

 

軽減税率は活字コンテンツの延命策に過ぎない

 新聞社が書籍・雑誌にも軽減税率の適用を求める理由は「書籍や雑誌の出版を扱う子会社を保有しているから」でしょう。

 先進国では新聞業界そのものが斜陽産業と化していますが、(書籍や雑誌などの)出版業界も「不況」と呼ばれる状況となっています。しかも、スマホが普及したことにより、生活スタイルが変化し、活字離れに拍車がかかっているのです。

 『文字』より『映像』の方が情報量は豊富です。つまり、コンテンツの1つに過ぎず、『印刷された文字コンテンツ』だけを優遇する理由を見つけることは難しいと言えるでしょう。

 活字の中で価値があるのは「学術論文」など専門的なものです。小説など『娯楽』に該当する分野にまで軽減税率を適用する意味は少ないと言えるはずです。

 

「有害書籍の選定は業界が自主的にするので、軽減税率の確実な適用を」と訴える業界団体

 ただ、書籍・雑誌の中には「有害図書」が存在します。一般には “エロ本” と呼ばれる出版物であり、「エロ本も軽減税率の適用対象」になることは難しい状況なのです。

  • 「有害図書」の指定はいつ・誰が行うのか?
    • 販売前に内容のチェックをしないと、軽減税率の適用ができない
    • 政府がチェックをすると、検閲に該当する

 法律で「有害図書の定義」を決める行為ですら、検閲に該当すると見なされる恐れがあります。そのため、業界団体は “自主管理団体” を作り、そこで事前にチェックをするから、合格した書籍・雑誌は軽減税率の適用をして欲しいと要求しているのです。

 この業界団体の行為は戦前に行われていた『自主検閲』そのものです。したがって、軽減税率の適用プロセスに採り入れること自体が誤りであると言えるでしょう。

 

軽減税率は「還付方式」で運用すべきだ

 電気・ガス・水道といった生活インフラが軽減税率の適用外なら、生活必需品とは言えない新聞や書籍・雑誌は対象外にしなければなりません。

 もし、どうしても対象にしたいのであれば、『所得税の払い戻し方式』で運用すべきでしょう。

 通常の消費税率を支払い、確定申告の方式で軽減税率分が戻ってくれば問題はないはずです。手間は少し増えますが、出版物に対する検閲を行う必要はありません。

 「有害図書に指定された出版物は還付の対象外」とすれば、出版後に内容を誰でも精査可能ですし、懸念点は解消されることでしょう。

 「販売時点で軽減税率が適用されていなければならない」との要求は世間からの反感を買いやすいことを新聞・出版業界は自覚する必要があると言えるのではないでしょうか。