米中貿易戦争が激しさを増している状況への備えを迅速に進める必要がある

 アメリカと中国の間で互いに関税をかけ合う貿易戦争が激しさを増している様子を NHK が伝えています。

画像:米中間の制裁合戦を報じるNHKニュース

 知財関連を中心に2000億ドル規模の輸入品に 25% の関税をかけるとアメリカが表明したこともあり、中国がこれに対する報復措置を採る可能性があります。“落とし所” が見当たらないだけに、日本政府は経済の悪影響が大きくならないよう立ち回る必要があると言えるでしょう。

 

 トランプ政権は、中国がアメリカのハイテク技術などを不当に手に入れて知的財産権を侵害しているとして、金額にして340億ドル規模の中国からの輸入品に25%の関税を上乗せする制裁措置を発動しています。

 これに対して中国側が同じ規模の報復措置を取ったことなどから、アメリカ通商代表部は1日、トランプ大統領からの指示を受けて、すでに手続きを進めていた2000億ドル規模の輸入品への10%の関税の上乗せについて、上乗せ分を25%に引き上げると発表しました。

 アメリカ・中国の双方が引く気配を見せていないため、当面は高関税による影響が経済に及ぶことになるでしょう。

 日本は直接的な当事者ではありませんが、アメリカや中国の企業と取引する日系企業が間接的に影響を受けることになります。そのため、政府がどういった経済政策で影響を限定させるのかが注目点になると言えるでしょう。

 

「相手の損害が大きくなることが勝利条件」という消耗戦

 互いに関税をかけ合う理由は「相手の経済的な損失を大きくするため」です。そのため、消耗戦になる可能性が高く、両国が共に疲弊するという事態を招くこともあります。

 中国はアメリカ・トランプ大統領の支持層が多い中西部(の農家)を狙い撃つ目的で大豆に高関税をかけました。しかし、思惑が外れた結果になっていると日経新聞が報じています。

  1. 中国がアメリカ産の大豆に高関税をかける
  2. 主に EU へ輸出されていたブラジル産大豆を中国が買い求めたことで、価格の急騰が発生
  3. アメリカ産の大豆は中国との争奪戦に敗れた EU が購入

 少なくとも、現時点で中国の一般消費者は高関税による影響を受けています。アメリカの大豆農家が影響を受けるかは「EU がどのぐらい大豆を購入するか」によるでしょう。そのため、アメリカ側が被るダメージは意外と限定的になる可能性があります。

 

『中国製造2025』に記載された分野が貿易戦争の主戦場になる可能性がある

 中国は「アメリカの農産物」への関税を引き上げ、アメリカは「中国の知財関係」への関税を引き上げています。どちらの国も「相手に直接影響が生じる分野」に狙い撃ちしていることが特筆事項と言えるでしょう。

 ただ、関税戦争が収束に向けた動きがないことから、状況はさらに悪化する可能性を念頭に置いておかなければなりません。

 特に、中国は『中国製造2025』を発表し、“工業強国” への飛躍を打ち出しています。「IoT や AI を駆使して、10個の発展分野に注力する」と宣言した訳ですから、これらの分野での研究・開発においてアメリカ側からの “妨害” が入ることを考慮に入れておく必要があります。

 アメリカやヨーロッパでは「技術流出」に過敏になっており、中国企業と組んだ研究・開発への制限は今以上に厳しくなることは十分に考えられます。そのため、日系企業は「どこと組むのか」という “踏み絵” を迫られる事態に向けた準備をしておいて損はないと言えるでしょう。

 

中国の絶対的な強みは「原子力発電による売電事業」である

 逆風に見舞われている中国ですが、他国からの “妨害” を受けない将来有望な分野もあります。それは『原子力発電』です。

 アメリカ、ヨーロッパ、日本などでは反原発派が騒いだことで、建設コストと政治的コストが上昇しました。おそらく、多くの先進国で原発の新規建設は絶望的でしょう。

 しかし、中国(やロシア)は違います。中央政府が「建設する」と宣言すれば、必要なのは建設コストだけで政治的なコストは不要です。そして、核兵器保有国であり、燃料を調達するハードルも高くありません。

 つまり、中国は「電力不足を安価な原子力発電で賄える要件を満たした数少ない国」なのです。周辺国に「原発で発電した安価な電力を買う気はないか」とオファーすれば、中国に気に入られたい周辺国のメディアが「オファーを快諾べき」との論陣を張ることでしょう。

 周辺国が売電に応じたのであれば、電力供給で欠かせない存在になるまでは本性を現さないことが重要です。“後戻りができない状況” を作ってしまえば、周辺国を屈服させることは赤子の手をひねるようなものだからです。

 

 関税をかけ合う状況は歓迎できることではありませんが、状況がさらに悪化する可能性に備えた動きは政治の分野であっても、準備しておく必要があるはずです。

 TPP や EU との EPA は米中貿易戦争による戦禍を避けるシェルターとして一定の機能を果たすことでしょう。手続きに時間の要する政府の対応が決まる前に、企業も自衛策を講じた上で迅速に実行できるかが業績に直結する事態に直面していると言えるのではないでしょうか。