NAFTAの再交渉で満足な成果を引き出したトランプ大統領が日本との通商協定にも意欲を見せる

 NHK によりますと、9月30日に NAFTA (=北米自由貿易協定)の再交渉が合意に達し、アメリカのトランプ大統領が記者会見で日本との通商交渉にも意欲を示したとのことです。

 『アメリカが輸入する自動車への関税』がトランプ大統領の “カード” であり、この威力をどのように抑え込むかが交渉の鍵になるでしょう。「報復」が有効ではないことは中国が示しています。この点を認識していない政治家は能力に疑問符が付くと言わざるを得ないでしょう。

 

 3か国の再交渉は、30日、合意に達し、自動車分野ではメキシコとカナダからアメリカに関税ゼロで輸出できる車の台数に上限が設けられるなどアメリカに有利な内容に見直されました。

 合意を受けてトランプ大統領は1日、記者会見し、「関税がなければ、カナダやメキシコと合意に達することはなかっただろう」と述べ、輸入車に高い関税をかけることをちらつかせたことで、メキシコ、カナダから譲歩を勝ち取ったとみずからの交渉戦術をアピールしました。

 また今後、日本と行う日米物品貿易協定の交渉についてトランプ大統領は「交渉しないならば、日本の自動車に高い関税をかけると伝えた。そうしたら日本はすぐに協議を始めたいと言ってきた」と述べました。

 

『自動車の巨大市場』という強みを持つアメリカ

 アメリカの強みは『自動車の巨大市場』を持っていることでしょう。自動車産業は「多くの雇用を生み出す」という特徴があるため、どの国も「自国に生産拠点を置いて欲しい」という希望を持っています。

 なぜなら、国内の雇用情勢に直結するからです。

 アメリカは「自動車の国内市場が巨大」なのですが、カナダやメキシコで生産された自動車が NAFTA を通して無関税で輸入されています。アメリカよりも人件費が安い国で生産した自動車が無関税で市場に出せるとなれば、アメリカ国内の雇用情勢は悪化することになります。

 そのような事態を防ぐために、トランプ大統領は「自動車への関税」を散らつかせながら、NAFTA の再交渉を迫ったのです。アメリカの大統領が『自国の産業や国民を最優先にする政策』を採ることは「想定の範囲内」でなければなりません。「それにどう対処するのか」が各国の政治家には問われているのです。

 

「アメリカ国内に輸入される自動車への関税」に対抗できる “カード” がどれだけ持っているかが鍵

 トランプ大統領は日本に対しても、『自動車の巨大市場』を背景に「アメリカ国内に輸入される自動車への関税」という “カード” を散らつかせ、アメリカ優位な通商交渉を妥結させようとするでしょう。

 これは「交渉」ですから、「話し合い」で解決できるものではありません。交渉が不調に終われば、アメリカに輸出される自動車が関税の対象となり、市場での競争力を失います

 その結果、日本の主力産業である国内の自動車産業が苦境に立たされる訳ですから、交渉を決裂にすることはできません。したがって、アメリカとの通商交渉で “使えるカード” がどれだけ保有しているかが重要になるのです。

 日本の場合は『TPP 発効によるアメリカ産の農作物の競争力低下』でしょう。農畜産業は「共和党が強い地域」の主力産業ですし、日本市場での競争力を維持するための “見返り” を要求できるカードとして機能させなければなりません。

 また、TPP 以外に通商交渉で使えるカードがどれだけあるかも重要です。「交渉のカードとなる要素を具体的に指摘できるか」で政治家の能力を見れるだけに、これからどのような発言が出てくるかが注目点と言えるでしょう。

 

安倍政権の対米方針は「現状維持」

 トランプ政権と通商交渉を行う立場の安倍政権ですが、従来の対米方針を維持する形であると言えるでしょう。なぜなら、交渉を担当する閣僚に変更はないからです。

  • 麻生太郎・副総理兼財務大臣
  • 世耕弘成・経産大臣
  • 茂木敏充・経済再生担当大臣

 TPP 交渉をまとめた甘利明氏が自民党の選対本部長を務めることになりましたが、それ以外の実務者は全員留任しています。そのため、対米方針も第三次安倍内閣と同じものになると予想されます。

 野党は「アメリカに弱腰」などと安倍政権を批判しますが、強気に出たところで “結果” を手にしなければ意味のないことです。アメリカという『世界最強の軍事力』と『基軸通貨・アメリカドル』を持つ国との交渉で実際に使える “カード” を指摘できなければ、「強がっているだけ」とすぐに看破されてしまうことでしょう。

 政府の方針に文句を付けるだけの野党は「ノイズ発生源」になっているだけと自覚し、現実的で具体的な政治姿勢を示す必要があると言えるのではないでしょうか。