札幌市の住宅街に出没したクマを射殺したことに対し、首都圏や関西など “安全で無関係な地域” から動物愛護を要求するクレームが出る

 札幌市の住宅街に出没を繰り返していたヒグマがハンターによって射殺されました。この対応に対し、「駆除ではない対処策を採らなかったのか」とのクレームが道外から市に寄せられたと北海道新聞が報じています。

 無知によるクレームは仕方のないものですが、無責任な動物愛護が暴走することは止めなければなりません。したがって、同様の言いがかりを発生させないように「駆除の理由」を明らかにした記事を定期的に流す必要があると言えるでしょう。

 

 札幌市南区藤野、簾舞の住宅地に出没を繰り返したヒグマをハンターが猟銃で駆除したことを受け、札幌市には15日までに、約300件の意見が寄せられた

 (中略)

 市には同日に244件、15日午後4時までに50件の意見が寄せられた。ほとんどが首都圏や関西など道外からで、「麻酔で眠らせて森に帰して」「捕まえて動物園に移して」などの抗議だった。

 

ヒグマの行動範囲はメスでも 20〜30㎢、オスは 200〜300㎢ にもなる

 まず、人里に迷い込んだヒグマに対して射殺による駆除を積極的にすることはありません。これは「石狩西部のヒグマの個体群は『環境省のレッドリスト』に入っている」札幌市が認めているからです。

 ですから、「射殺による駆除」は最後の選択肢です。

 したがって、最初は「ヒグマが自発的に山に戻ること」を待ちますが、人間の期待どおりに行動する保証はありません。なぜなら、ヒグマは学習能力が高く、味を覚えた食べ物に執着してしまうのです。

 人里にある農作物の味を覚えてしまうと、“人間の味” を覚えるリスクが飛躍的に高まります。行動範囲が少ないメスでさえ、20平方キロメートルです。「山奥で放す(= 放獣)」という選択肢は現実的と言えるものではないという事情があるのです。

 

クマ類に対して麻酔銃の使用は原則不許可

 住宅地に侵入したクマが駆除されたニュースへの批判として起きるのは「麻酔で眠らせて捕獲しなかったのか」という内容がメインでしょう。しかし、これは原則不許可と環境省が発表(= PDF)しています。

 クマ類(ツキノワグマ、ヒグマ)、イノシシ、ニホンジカ等の大型の獣類に対して麻酔銃猟を実施する場合、麻酔薬の効力が現れるまでに時間を要し、麻酔銃で撃たれたことにより対象個体が興奮し、従事者が反撃を受けたり、周辺の住民、住宅等に重大な危害又は損害を及ぼす可能性が高まるおそれがあるため、原則として許可しないこととされています。

 狩猟従事者がヒグマに反撃されるリスクがあるのですから、麻酔銃の使用が原則不許可なのは当たり前です。

 また、「対象の個体にどれだけの麻酔量が必要か」を的確に判断できる知識も必要です。これは大量の麻酔薬を投与してしまうと、対象のヒグマが死んでしまう恐れがあるからです。

 つまり、駆除の現場に『狩猟免許』と『獣医師免許』を持った人物がいることが前提であり、その上で「クマ類から反撃を受けるリスク」を取る必要があるのです。したがって、札幌市に寄せられたクレームは配慮に値しないものと言わざるを得ないでしょう。

 

クマ類の生息域から外れる首都圏や関西などの都市部からクレームが寄せられている状況

 都市部からクマ類の駆除に対し、捕獲や保護を求める要求が出る理由は「クマ類の出没が死活問題ではないから」でしょう。

 「出没による危険度」や「捕獲・保護時のリスク」を認識していないから、安易な要求をしているのです。これは日本だけに限った話ではありません。スイスでは『狼の保護を求める都市部』と『狼による実害を受ける農村部』で対立が起きています。

 首都圏や関西の都市部で『クマ類による実害』を受ける可能性はゼロ同然です。だから、「なぜ保護を最優先にしないのか」と “無責任で安全な立場” からクレームを入れることができる立場にあるのです。

 このような市民の声に配慮してしまうと、『地元住民の安全』が脅かされることに直結します。事実に基づく説明をしても理解できない・する気がない人物に譲歩したことで地域の安全が脅かされては元も子もありません

 「行政がハンターに駆除を依頼せざるを得ない理由をニュースで取り上げて欲しい」とマスコミに要請する意味はあると言えるのではないでしょうか。