ゴーン被告にパスポートを持たせたことを失念する弁護士が面会記録を書き忘れるのは想定内だが、日弁連の全面擁護は如何なものか

 時事通信によりますと、ゴーン被告の弁護人を担当していた弘中惇一郎弁護士の事務所で逃亡の協力者との面会記録が一部しか記載されていなかったとのことです。

 弘中弁護士は「ゴーン被告にパスポート所持許可を地裁に申請し、許可後に手渡していたこと」を失念する弁護士なのです。面会記録の書き忘れなど想定内でしょう。

 ただ、面会記録は裁判所に提出するよう求められていたと報じられているのです。保釈の責務を果たしているとは言い難い弁護士の行為を全面擁護する日弁連の姿勢は問題視されるべきと言えるでしょう。

 

 ゴーン被告は昨年7月以降、逃亡を手助けした犯人隠避などの容疑で逮捕状が出た外国籍3人のうち、ピーター・テイラー容疑者(26)と逃亡日を含め、計7回面会した。しかし、面会記録には、同8月までにゴーン被告の弁護人だった弘中惇一郎弁護士の事務所内で会った4回しか記載されていなかった。

 (中略)

 東京地裁はゴーン被告の保釈を認める条件として、妻キャロル・ナハス容疑者(53)=偽証容疑で逮捕状=ら事件関係者との接触を制限。関係者以外と接触した場合は日時・場所を記録し、裁判所に提出するよう求めていた。

 

「保釈によって容疑者や被告は完全に自由となり、弁護士(や裁判所)は何ら責任を追わない」との現行の運用制度は問題

 ゴーン被告の国外逃亡で現行の保釈制度の問題点が浮き彫りになったと言わざるを得ないでしょう。なぜなら、保釈申請者サイドの “善意” に期待する運用制度となっており、違反者や協力者によって生じた問題のしわ寄せが社会に行くからです。

 「保釈者の監視は居住地を管轄する警察署の仕事。弁護士の役割ではない」と弁護士は主張することでしょう。

 この論理は法的には正しいことです。しかし、警察の人員には限りがありますし、万単位にも及び保釈中の人物の動向を監視することは現実的に不可能です。

 しかも、「裁判所が保釈を認めた人を監視することは人権侵害だ」と管轄する警察を訴えれば、かなりの確率で監視を止めさせることができるでしょう。毎回訴訟を起こす必要はありませんし、『警告』という形で法的措置をチラつかせるだけで十分な効果が得られるからです。

 したがって、現状は保釈制度の “穴” を突くことに長けた弘中弁護士のような人物(やその価値観に共感する裁判官)にとって有益なだけで大衆にとってのメリットはありません。したがって、過去に言及した保釈制度の改善が求められている状況と言えるでしょう。

 

「(逃亡の打ち合わせの)証拠はない」と弘中弁護士、「事務所の捜索は違法行為」と日弁連会長

 「謀議していた」という証拠が弘中弁護士の事務所に残っている可能性はほぼゼロですから、弘中弁護士は自信を持って「証拠はない」と断言できるでしょう。

 立証責任は検察側にありますし、弘中氏は面会時に同席していなければ「知らない」とだけ言えば十分だからです。ただ、“逃亡を打ち合わせを行うに適した場所” を提供した可能性がありますから、捜査に協力すべき立場にあることは否定できないでしょう。

 しかし、それを拒んでいます。また、日弁連は「依頼人の秘密を守ることが弁護士の責務」との理由で弘中弁護士を全面擁護する会長声明を出しています。

 日弁連の主張は「裁判の被告人を守るためには必要不可欠なこと」でしょう。しかし、カルロス・ゴーンは被告人であると同時に現在進行形の逃亡犯です。

 逃亡犯が残した痕跡を警察や検察に与えないようにするための “捜査妨害” が第三者の世間一般には受け入れらない見込みはほとんどありません。その行為を日弁連が奨励しているのですから、司法への信用が低下するのは避けられない状況にあると言わざるを得ないでしょう。

 

弁護士や裁判官が『保釈制度の非対称性』でメリットを得ている現状は是正されるべき

 保釈中の人物が起こした事件などの問題に対する責任を “保釈申請を手伝った弁護士” も “保釈を認めた裁判官” も負う立場にありません。その一方で保釈を勝ち取った際は「人権が守られた」との成果を得ることが可能な立場です。

 要するに、弁護士や裁判官にとって現在の保釈制度はノーリスク・ハイリターンなのです。

 逃走や再犯による『責任』を問われることなく、被告や容疑者に自由を与えたとの『成果』を誇れるという非対称性の恩恵を最大限享受できる立場にあるからです。この現状は是正されなければならないと言えるでしょう。

 被告や容疑者が保釈中に問題を起こしたことで直接的な影響を受けるのは「市井の庶民」だからです。身の危険を訴える弁護士や裁判官には警察が親身になって対処してくれる可能性が大ですが、一般市民からの申し出の場合は門前払いを受ける可能性が現実にあるからです。

 したがって、現状の “ノーリスク” が少なくとも “ローリスク” となるよう弁護士や裁判官の自制を促す仕組みに保釈制度は改正されるべきでしょう。

 

 弘中弁護士の姿勢を全面的に理解する法曹関係者が多数派である限り、世間からの信用はマスコミと同様のペースで低下する可能性があると言えるのではないでしょうか。