「『新型インフル等特措法』の解釈を変えれば新型コロナにも適用可能だから法改正は不要」と主張する立法府の議員は給料泥棒

 NHK によりますと、3月4日に安倍首相が野党5党の代表などと個別会談を行い、「新型コロナウイルスのさらなる感染拡大が発生した場合に緊急事態宣言を可能にする法案」の早期成立への協力を呼びかけたとのことです。

 立憲民主党などは「『新型インフル等特措法』で対応が可能」と主張していますが、これは条文の内容から不可能です。また、「議員立法ではなく内閣提出法案とすることで審議時間を確保しろ」と要求しており、政権批判の目的が透けて見えると言わざるを得ないでしょう。

 

 新型コロナウイルスへの対応をめぐり、安倍総理大臣は立憲民主党など野党5党の党首らと個別に会談し、さらなる感染拡大に備え「緊急事態宣言」を可能にする法案の早期成立に協力を呼びかけました。野党側からは、今の法律の適用などを求める意見が出された一方、感染拡大を防ぐ取り組みには協力する考えが示されました。

 (中略)

 立憲民主党の枝野代表は、記者団に対し、「私たちは、1か月以上前から、新型インフルエンザ等対策特別措置法を適用できると主張し、現時点でもそうすべきだと思っていると安倍総理大臣に伝えた。ただ、議論する時間がないことは分かっており、政府が改正案を提出し、審議を急ぐことには協力するつもりだ」と述べました。

 

新型コロナウイルスを『新型インフル等特措法』の対象することはできない

 立憲民主党の所属議員などが持ち出しているのは民主党政権時に成立した『新型インフルエンザ等対策特別措置法』です。第32条から「緊急事態宣言等」の条文があるのですが、問題となるのは「新型インフルエンザ等」の定義です。

 というのは『新型インフル等特措法』は『感染症法』で使われている「病名の定義」を転用した法律だからです。定義は『感染症』の第6条に以下のように記述されています。

  1. 新型インフルエンザ等感染症
    1. 新型インフルエンザ
      • 新たに人から人に伝染する能力を有する
      • 一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していない
      • 全国的かつ急速な蔓延で国民の生命及び健康に重大な影響を与える
    2. 再興型インフルエンザ
      • かつて世界的規模で流行したインフルエンザ
      • 一般に現在の国民の大部分が当該感染症に対する免疫を獲得していない
      • 全国的かつ急速な蔓延で国民の生命及び健康に重大な影響を与える
  2. 指定感染症
    • 既に知られている感染性の疾病
    • 一類〜三類感染症および新型インフルエンザ等感染症ではない
    • 第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、国民の生命及び健康に重大な影響を与える
  3. 新感染症
    • 人から人に伝染すると認められる疾病
    • 既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもの
    • 当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤
    • 当該疾病の蔓延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの

 一部の野党議員は「『新型インフル等特措法』なのだから、“等” の部分(の解釈次第)で適用は可能」と主張していますが、それは無理筋と言わざるを得ません。なぜなら、その解釈はできないと答弁されているからです。

 

『新感染症』は “一時しのぎ” の分類

 立憲民主党が主張する「『新型インフル等特措法』の新型コロナウイルスへの適用」が不可能な理由は「新型コロナは(立憲などが言う)『新感染症』の定義には該当しない」からです。

 その根拠は平成26年(2014年)11月に行われた第187回国会・厚労委員会で政府参考人として出席した厚労省健康局長新村和哉氏が以下のように “説明” しているからです。

画像:厚労委員会での質疑

 肝となるのは「『新感染症』の病原体が判明した段階で、『指定感染症』への指定、あるいは、『一類感染症』から『五類感染症』までの適当なところへの分類を行う」という部分です。

 新型コロナウイルスは「病原体が判明済み」です。病原体が “判明” しているから、「『PCR 検査』を実施して感染してないかの確認をさせろ」との要求が出るのです。

 新型コロナが『新感染症』の定義を現在も満たしているなら、『PCR 検査』という言葉がメディアを賑わすこともなかったでしょう。つまり、立憲民主党などの野党が要求する『新型インフル等特措法』を新型コロナウイルスに適用することは無茶なことだと言わざるを得ないでしょう。

 

法律を作ることができる立法府の一員なら、新型コロナウイルス対応に適した法律を作成または改正すべきだ

 国会議員は法律を作ることができる立法府の一員なのですから、「法解釈を都合よく変更する」のではなく「足りない部分を改善する」ことを優先すべきです。なぜなら、法律を変更できる権限は立法府の一員にしかできないことだからです。

 もし、その責務から逃げる国会議員がいるのであれば、給料泥棒と言わざるを得ません。

 『新型インフル等特措法』にも問題はあります。「緊急事態宣言や延長」は “国会報告” ですし、最長で2年です。初期は “国会報告” でも問題はありませんが、その場合の期間は 3〜6 ヶ月とすべきです。延長については国会承認を得るなど規定を変更すべきです。

 財産権や人格権などの私権が著しく制限される可能性があるのですから、法律で「制限できる範囲」を明確に定めておく必要がありますし、問題点が発覚したなら速やかに改善策を提言・精査・実行しなければなりません。

 この精度が高い政党ほど、有権者に自分たちの政策立案能力を訴えることができるのです。「みなし」や「遡り」が容認されるのは法治国家として “あるまじき行為” です。

 野党が立憲主義を掲げるなら、新型コロナウイルスについても方針を堅持すべきと言えるでしょう。

 

 『新型インフル等特措法』が新型コロナウイルス感染症には法的に使えません。それを理解できないなら、国会議員として不適格です。また、「政府が法律があるのに適応を怠っていた」との印象を受け付けたいなら、悪質な印象操作です。

 “本来の仕事” をすることに消極的な立法府の一員に理解を示す必要はありません。「仕事をしろ」という当たり前の要求を続ける必要があると言えるのではないでしょうか。