「新型コロナで温室効果ガスが激減した今こそ、『グリーン・ニューディール』を景気対策に」と IEA が音頭取りを始める

 日経新聞によりますと、国際エネルギー機関(IEA)が2020年の二酸化炭素排出量は前年比で 8% (=約26億トン)の減少になると予想したとのことです。

 排出量が減少した理由は新型コロナウイルスの感染拡大で化石燃料の需要が急減したことにあります。その代わりに世界経済が急激な停滞となっているのですが、景気回復策に『グリーン・ニューディール政策』を要求しています。

 不況で苦しむ人々に電気代を高騰させた挙句に供給に不安を生じる再生可能エネルギーへの投資を募る時点で論外と言わざるを得ないでしょう。

 

 IEAは20年のエネルギー関連の二酸化炭素(CO2)の排出量は前年比8%(約26億トン)の減少になると予測した。08年秋に起きたリーマン・ショックの影響を大きく上回る。英国に拠点を置く気候変動分析サイト「カーボン・ブリーフ」もCO2の排出量が同5.5%減ると推計した。新型コロナ拡大による都市封鎖や航空機の運航停止で化石燃料需要が急減したことが要因という。

 (中略)

 いくら温暖化ガスが減っても雇用の確保や企業活動の再開など経済回復が伴わなければ、自然エネルギーなどへの投資も細り持続可能な社会が実現しない。そのためIEAのファティ・ビロル事務局長は「クリーンエネルギーへの転換を経済回復や景気刺激策の中心政策にすべきだ」と提言する。

 

車や航空機の利用が急減し、化石燃料の消費量が急落したことが要因

 新型コロナウイルスは人が “キャリア” として感染拡大に寄与しているため、世界中でロックダウン(=都市の封鎖)が発生しました。そのため、移動手段である自動車や航空機の利用ニーズが下がり、化石燃料の消費量が減少しました。

 それにより、二酸化炭素の発生量も前年の2019年と比較して 8% のマイナスになると見積もられています。

画像:エネルギー由来の二酸化炭素排出量(日経新聞より)

 経済活動は甚大なダメージを被ったのですが、一方で大気汚染はほぼ解消される事態となっています。両者はトレードオフの関係にある訳ですから、どのように両立させるかが IEA にとっての課題と言えるでしょう。

 

「地球温暖化問題」は “暇を持て余した富裕層の活動” という身も蓋もない現実

 今後の環境保護活動は厳しい状況に置かれることでしょう。なぜなら、活動家が求める社会を実現するのは「新型コロナウイルスの感染拡大によって経済が止まっている現状を続けること」が前提になるからです。

 この現状で「生活は以前と同じままです」と言える人は少数派です。また、どの国も経済を止めてしまったため、税収の落ち込みは不可避です。

 IEA が希望する『カーボンフリーの社会』を実現するには「政府からの補助金」が(現状では)不可欠ですが、国民の多くが不況に喘ぐことが確定的な現状で資金が拠出される可能性はゼロに近いでしょう。

 だから、「再生可能エネルギー業界に補助金を投じる『グリーン・ニューディール政策』を景気対策として採用しろ」と我田引水の主張を展開しているのです。

 しかし、再生可能エネルギーは “自然任せ” ですから、発電量が安定しません。しかも市場での競争力がない発電手法であるため、日本のような固定買取制度がある国では電気代の高騰を招くことになります。

 国民が不況で金がないことが問題であるにも関わらず、生活費(である電気代)を高騰させることは愚策です。個人だけでなく企業も影響を被る訳ですから、明らかに間違った要求内容だと言わざるを得ないでしょう。

 

“運転コストが安くて二酸化炭素を排出しない” 原子力発電所の運転を再開すれば済む話

 IEA が推奨する『自然エネルギー』ですが、市場での消費者に選ばれるだけの優位性は備わっていないことが現状です。だから、政府からの補助金頼みになっているのです。

 つまり、これは電力消費者にとっては “通常よりも割高な電力” の購入を強いられることを意味します。この点には言及せず、「地球環境のために自然エネルギーを普及させろ」というのは単なる利権と同じでしょう。

 「運転コスト」や「二酸化炭素の排出量がゼロ」という点では既存の原子力発電所を運転再開することが最も合理的です。この事実を認めることができないなら、環境保護活動をする資格はありません。なぜなら、データで示されているからです。

 原発とは発電能力で太刀打ちできないから、自然エネルギー推奨派が『原発の運転要件』に過剰なまでの制約を設けるための言論を飛ばしているのです。その結果が「極めて割高な電気料金」と「バックアップ用の火力発電の増強」なのですから、本末転倒と言わざるを得ません。

 

 少なくとも、国土の約 60% が山地である日本には「自然エネルギーを使った発電をするために適した用地」を確保することが実質的に不可能です。利用可能な土地は限られているのですから、発電の効率性に着目しなければならないことは明らかです。

 福島第一原発ばかりが注目されていますが、より震源地の近くに位置していた女川原発(東北電力)が問題を起こすことなく東日本大震災という “世界で最も過酷なストレステスト” を乗り切った事実を評価した上での対応が必要になると言えるのではないでしょうか。