消滅の可能性を示唆されたルノー、大株主であるフランス政府から早期支援の引き換えに無理難題を突き付けられる

 ロイター通信によりますと、フランスのルメール経済・財務相が「ルノーは早期支援がないと消滅の可能性がある」と言及したとのことです。

 大株主であり、早期支援の決定権を持つ大臣が直々に “揺さぶり” をかけている状況です。支援の条件は「国内雇用の維持」と「環境を重視した車種(=電気自動車)の開発」ですから、ルノーにとっては無理難題と言わざるを得ないでしょう。

 

 フランスのルメール経済・財務相は22日のラジオ番組で、仏自動車大手ルノー(RENA.PA)について、支援を早期に得られなければ消滅する可能性があると述べた。

 特にパリ近郊のフラン工場は閉鎖すべきでなく、国内の雇用を最大限維持する必要があると同時に、競争力も保持するべきであるとした。

 (中略)

 フランス政府はかねてから、国内自動車メーカーは政府支援を受ける代わりに製造拠点を国内に回帰させるべきと主張。またルノーなどに対しては、より環境負荷の少ない車を開発するよう要請している。

 

「日産からの “上納金” で収益を維持するビジネスモデル」が完全に行き詰った

 ルノーの業績は「経営危機に陥っていた日産を傘下に収めることに成功したことによる成果」によって支えられて来ました。要するに筆頭株主として、日産という組織を最大限に活用することが利益の根幹だったのです。

  • 開発よりも配当金に重きを置け
  • フランス国内で製造せよ
  • ルノーが製造した部品を仕入れよ

 アライアンス(= 企業連合)を形成した場合は「購入量が大きくなる」ため、交渉の際は『大口顧客』になる買い手側が優位になります。

 ところが、ルノー・日産連合はルノーの筆頭株主であるフランス政府が国内雇用対策として経営に口出しをして来ます。フランス国内での低い生産性は好景気なら吸収できても、不況時には会社経営そのものを行き詰まらせる大きな要因となります。

 この問題から目を背け続ける以上、企業側が採れる選択肢は限られていると言わざるを得ないでしょう。

 

フランス政府からの “要望” は明らかに無理難題

 逆風にさらされている状況にあったルノーですが、新型コロナウイルスがヨーロッパで猛威を振るったことで「破綻」が現実味を帯びる状況になってしまいました。

 フランス政府は助け舟を出す考えを示しているものの、交換条件がルノーにとっては無理難題です。なぜなら、「前門の虎、後門の狼」と言えるからです。

  1. 国内の雇用を最大限維持せよ
    • フランスでは労働者の権利が強いため、生産性が低い
    • ルノーの市場競争力が下がる大きな要因
  2. 環境負荷の少ない車を開発せよ
    • 電気自動車などを開発する能力は高くない
    • 日産からの技術移転が “頼みの綱” だが、関係性に問題が発生中

 政府の要望を受け入れると、高価格・低品質の車両になってしまう恐れが現実にあるのです。したがって、フランス政府からの要望を何らかの形で譲歩させることができないと大きな代償を被る “時限爆弾” が仕掛けられたとこと変わりないと言えるでしょう。

 

『コスト削減策』と『運転資金の確保』はルノーにとって「喫緊の課題」

 ルノー・日産連合は「25日からの5月最終週で “重要なコスト削減計画” を発表する」と予定されています。(日産は27日でルノーは29日の予定)

 おそらく、大幅なコスト削減計画が公表されることでしょう。ルノーは F1 に参戦中ですが、「(2020年限りでの)撤退」が過去にないほどの確率になっていると考えられます。

 巨額の開発費用を投入するも勝てていないのですから、撤退派を退けることは難しいはずです。メルセデスのように『王者』として君臨するか、フェラーリのように『カルト的なブランド力』を確立できない現状では「立て直しの対象」になるのは止むを得ません。

 しかも、メルセデスは電気自動車の F1 に該当する『フォーミュラe』にも今年から “自社のパワーユニット” を使って参戦したのですから、ルノーにとっては厳しい条件ばかりが出てくる状況です。

 “収益が確保できている車種” を見極めた上で効率化を図り、その上で『不相応に拡大しすぎた部門』を縮小し、政府が希望する電気自動車などに資本を配置転換することが基本路線になるでしょう。

 

 コロナ禍によってルノーは強制的に再編を強いられる形になっているため、アライアンスの一員である日産や三菱自動車にも影響は現れることでしょう。その際に上手く立ち回ることが求められていると言えるのではないでしょうか。