「農業をITで一括管理し大量生産する」にはお手頃価格での安定した電力供給が不可欠なのでは?

 『100億人の食料、支えるのはIT 一括管理し大量生産』との見出しを付け、朝日新聞が農業とITのコラボレーションによる相乗効果を紹介しています。

 しかし、ITによる恩恵を生み出すには電力供給が欠かせません。24時間365日稼働させることが前提であることを考えると、反原発派の旗頭で電気代を高騰させた犯人でもある朝日新聞は全体像が見えていないのでしょう。

 

 データを駆使し農作業に助言してくれる「精密農業」のシステムは、米種子大手モンサント傘下のクライメート・コーポレーションが提供している。モンサントは昨年12月、2021年までに農業からの温室効果ガスの排出を増やさない仕組みを実現する構想を掲げた。

 (中略)

 狭い場所で大量に生産できる「垂直農法」。今月できる近隣の新本社は、年産約907トンの能力を持つ世界最大級の植物工場になる。

 生育に土も太陽光も使わない。照りつけるLED光の赤と青の色の配分は7年かけて成長に最適化してきた。狙いは早く、栄養豊富に成長させること。水や肥料も根に噴霧して済ませる。殺虫剤使用はゼロだ。

 収穫は最大年30回。生産性を引き上げる技術の核心は機械学習だ。栽培棚には至る所にセンサーがあり、生育状況を常に監視。収穫までに取る3万以上のデータをコンピューターが分析し、さらに効率よく栽培できる条件を探り続ける。

 

 

 記事ではITを活用した農業や水産業の事例が紹介されています。それぞれの事案で共通することは「どのように生産性を高め、効率化させることができるか」という点に集約されます。

 作物の成長に欠かせない地中の栄養素が雨の後にどのぐらい残っているか。除草剤を散布しても影響を受けない作物を品種改良という形でどう作るか。土地を平面活用するのではなく、工場という形で立体活用する方法は存在しないのか。

 上述のような形で管理を一括することで手間を省き、従来よりも大量生産することでコストパフォーマンスを大幅に改善させようとする狙いがあるのです。

 そのために必要となるのは「科学的根拠に基づく物差し」です。科学的な根拠を得るためには生育データや気象データが不可欠であり、それらのデータを蓄積・分析することでどういったアプローチが効果的なのかが明らかとなるからです。

 

 もちろん、従来の手法にこだわる人もいるでしょう。そのような価値観を持つ人に無理強いをする必要はありません。

 ですが、そのような人々を過剰に保護する必要がないことも現実です。ITを利用した科学的アプローチを導入することで、農業や水産業を効率化できる見込みがあるのです。それを阻害し、割高な生産物を消費者が買わざるを得ない状況は称賛できるものではありません。

 高品質の農産物や水産物をITによって大量生産が可能となるなら、そちらの方向に舵を切るべきです。「値崩れする」という懸念を示す人もいるでしょうが、それは日本市場だけで売り切ろうとするからです。

 なぜ、高品質で安全な作物を日本の10倍以上の人口のいる中国市場などに販売しようとしないのでしょうか。ITを適切に運用ができれいれば、収穫や販売についてもパッケージにするハードルは高くありません。“生産者が見えること” が消費者に与える安心感は大きいものがあると言えるでしょう。

 

 しかし、ITを使うには電力が不可欠であることを見落としてはなりません。日本では原子力発電所が朝日新聞など反原発派の活動によって停止し、電気代が現在よりも高くなることが濃厚です。

 これはコスト高になることを意味していますし、計画停電で電力供給が一定時間ストップするような事態となれば、生産体制に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。

 人手不足が深刻な農業でも、生産性を高める余地があることを紹介し、ポテンシャルがあることを示す記事の内容は非常にすばらしいものです。ですが、そのハードルになる可能性が最も高いものの1つが朝日新聞の社訓となっている反原発によるマイナス面であることは皮肉な状況と言えるのではないでしょうか。