「TPP反対」は耳にするものの、「RCEP反対」は聞こえてこない不思議な状況

 アメリカ議会の諮問機関が「TPPが発効せず、RCEPが発効すると、中国に約10兆円の経済効果がもたらされる」との分析結果を公表したとNHKが伝えています。

 日本にとってはどちらも “経済連携協定” です。ただ、TPPに反対する声は聞こえてきても、RCEPに反対する声はメディアからほとんど聞こえてこないことは不思議なことと言えるでしょう。

 

 TPPが発効せずに、中国や日本など16か国が交渉を進めている、RCEP=東アジア地域包括的経済連携が発効した場合、中国に880億ドル(日本円にしておよそ9兆6000億円)の経済効果をもたらすと分析しています。逆にTPPが発効して、RCEPが発効しない場合は、中国は220億ドル(およそ2兆4000億円)の損失をこうむるとしています。

 

 RCEPは Regional Comprehensive Economic Partnership の略で、ASEAN や日本・中国・韓国との間での FTA (自由貿易協定)のことです。

  • TPP のみ
    • アメリカ、カナダ、メキシコ、ペルー、チリ
  • TPP および RCEP
    • 日本、オーストラリア、ニュージーランド、ベトナム、マレーシア、シンガポール、ブルネイ
  • RCEPのみ
    • 中国、韓国、インド、インドネシア、カンボジア、タイ、フィリピン、ミャンマー、ラオス

 日本は TPP および RCEP の両方と交渉しており、諸外国との自由貿易協定に前向きな姿勢を見せています。つまり、「TPP で生活が脅かされるなら、RCEP でも生活を脅かされる」ことは大いに想定できることなのです。

 

 しかし、メディアでは「TPP反対」という声は大々的に報じる一方、日本国内の生産者が同様の窮地に立たされる可能性がある RCEP に対してはほとんど反対していません。

 これはなぜでしょうか。TPP に反対する主要因は農業です。「農家の生活が脅かされること」が理由であれば、地理的な距離も近く、気候も似ている中国や韓国と自由貿易協定が締結されることを意味する RCEP が発効されると、農家は同じようにダメージを被ります。

 また、アメリカ産の農作物の輸入を食い止めたとしても、オーストラリア産の牛肉やニュージーランド産の乳製品は RCEP があることで、TPP とほぼ同水準で日本市場に入っていることになるでしょう。

 TPP に反対する理由が国内農業を守るというものであれば、同じ理由で RCEP にも反対しなければならないのです。

 

 RCEP についての交渉は今年12月に行われる予定の日中韓による3カ国首脳会議の場で何らかの話し合いが行われることでしょう。

 なぜなら、TPP 加盟交渉に加わらなかった2カ国の首脳が日本を訪問するからです。中国・韓国は TPP よりも先に RCEP を締結し、発効させたいという要望を持って来日にすることが想定されます。

 TPP 反対勢力の中心が中国や韓国にやたらと寄り添う野党勢力ですので、RCEP に反対するどころか、締結を強く後押しすることでしょう。

 そうなると、日本にとって不利となる条約を締結することになることも考えられます。ISDS 条項がなければ、進出国に投資した日経企業が大きな損を出すことになります。撤退を認めない中国に進出して、大赤字を出した企業は多数存在しますし、同じ失敗を繰り返すことは愚の骨頂です。

 また、共産党のように TPP で食品の安全性を問題視するなら、RCEP でも同じように問題視しなければなりません。「中国や韓国からの輸入物にそうした対応は不要」と主張するのであれば、明らかなダブルスタンダードです。

 

 TPP と同じ条件なら、RCEP についても同様に交渉する価値は政府になるでしょう。逆に、関税を引き下げるだけで、投資家の保護などが行われないなら、多国間協定の締結を急ぐ必要はありません。

 日本とフェアな経済関係を構築できる国と個別に経済・貿易協定を締結するために交渉すれば良いからです。敵対的な政策を隠すことのない中国や韓国に経済協定による “プレゼント” を送る必要はないのです。

 相手が “ギフト” を持ってこない限り、交渉のテーブルに着くことも消極的で十分と言えるのではないでしょうか。