過酷な天候でも大会開催が行われたことを美談として取り上げる風潮は危険だ
全国的な大雪に見舞われた1月15日に京都で都道府県対抗全国女子駅伝が行われました。
吹雪く中で大会が強行された形となるのですが、地元の京都新聞など一部のメディアでは大会が開催されたことに尽力した関係者を称賛する記事を書いています。これは選手にリスクを取られる危険なものと言えるでしょう。
前日からの大雪で全国女子駅伝はレース開催が危ぶまれた。この日に向けた選手の努力を摘み取りたくないと、関係者は早朝から懸命に雪をかき、安全確保に万全を期して開催にこぎつけた。各チームは寒さ対策を入念に行い、雪と闘いながらも力強くたすきをつなぎきった。
ます、天候状態が極めて悪い中で大会が開催されたことが問題です。「準備した選手の晴れ舞台だから」というのは主催者側の言い分に過ぎないものです。
過酷な環境でレースを行うこともある自転車ロードレースでは「エクストリーム・ウェザー・プロトコル」という指針(PDF)が用意されており、天候上の問題がある場合は競技の開催そのものを中止するという規定が存在します。
アスリート生命を重視するのであれば、こうした基準を整備することが不可欠と言えるでしょう。
自転車ロードレース界で用いられている基準は次のものです。
- Freezing rain:霰(あられ)・雹(ひょう)
- Snow accumulation on the road:積雪
- Strong winds:強風
- Extreme temperatures:極端な気温
- Poor visibility:視界不良
- Air pollution:大気汚染
上記の項目が「エクストリーム・ウェザー・プロトコル」の中で言及されていますが、明確な線引きの基準や(中止にする、コースを短縮するなどの)対処指針が記されていないため、現場から不満が出ていることも指摘されています。
ですが、大会の中止であったり、距離を短縮する根拠となる規定が存在することは大きいと言えるでしょう。
今回の都道府県対抗全国女子駅伝では『積雪』による除雪が行われ、競技中は雪による『視界不良』が中継映像から容易に分かるほどでした。
また、路面凍結による選手が転倒するリスクや低体温症に陥るリスクが例年よりも高かったことも明らかです。大会で利用されるコースさえ確保されていれば問題ないという考えは間違っているでしょう。
なぜなら、転倒で怪我をした選手や低体温症となった選手を一般道路を使って病院に搬送する必要が生じることが考えられるからです。この部分は “開催地の自治体からの理解” だけではカバーしきれないことです。
「天候が思わしくない状況でも大会は開催すべき」と考える人がいるなら、「全日本マラソン大会を7月か8月に開催すべき」と主張すべきです。
2020年に東京五輪が開催されるため、マラソン競技に適さない夏場に大会が行われることを意味します。2017〜2019年までの期間限定であれば、選手強化という点でも大きな価値があると断言できるでしょう。その際、“避暑地” として知られる地域で開催するのではなく、東京などで開催すべきです。
熱中症のリスクが指摘されたとしても、「雨が降れば、気温はそこまで上がらない」「選手の頑張りに報いたい」という主張で押し切れてしまうことを見落としてはなりません。
陸連が「根性論で乗り切れる」と考えているなら、夏場に本州の太平洋沿いの都市でマラソン大会を開催し、東京五輪でメダルを獲得するための強化に乗り出すべきです。さすがにその考えは受け入れらないと思うのであれば、「エクストリーム・ウェザー・プロトコル」の導入を行うべきなのではないでしょうか。