新型コロナによる「オフィス需要減」により、不動産事業と周辺飲食業への逆風が強まる懸念が生じる

 日経新聞によりますと、新型コロナウイルスの感染拡大を機に在宅勤務を行う企業が増加したしたことでオフィスに対する見方に変化が生じているとのことです。

 見出しは「オフィス不要論」と誇張されていますが、「需要減(の恐れ)」を書くことが適切でしょう。ただ、都心部での空室率の上昇が起きる可能性が高くなっており、不動産業の落ち込みなどが現実味を帯びています。

 転換期を迎えたとしても不思議ではないと言えるでしょう。

 

 新型コロナウイルスの感染拡大による在宅勤務の普及で、オフィスのあり方が変わってきた。政府は14日、新型コロナウイルスの感染に関する緊急事態宣言の対象から39県を外すと決めた。

 だがテレワークが機能すると確認したスタートアップなど新興勢は、事業環境の悪化に備えオフィスを解約し始めた。都心部のオフィス利用に依存する不動産会社は、成長戦略の見直しを迫られる可能性がある。

 (中略)

 日本総合研究所(東京・品川)の室元翔太研究員は、全就業者の1割がテレワークを続けたと仮定すると、都心の空室率は15%近くまで上昇し、賃料も2割程度下がる可能性があるとみる。

 

自宅でも作業ができる仕事を(賃料の高い)都市部のオフィスに出向いて行う必要はない

 ビジネスオフィスに対するニーズは「減少傾向」が色濃くなるでしょう。これは『オフィス以外の場所でもできる仕事』が今回のコロナ禍によって浮き彫りになってしまったからです。

 在宅勤務でオフィス勤務に匹敵するアウトプット(=成果)を示すことができるなら、経営者は高い賃料を負担してまで都市部にオフィスを保持する必要はありません。

 どの企業も緊急事態宣言下で「自社で在宅勤務が可能か」を判断することができたことでしょう。

 そのため、外回りなどがある営業部門などホワイトカラーを中心に「オフィススペースの削減」や「やや郊外への移転」が進行する傾向が現れるものと予想されます。

 

実店舗や “司令部” に相当する部署などにオフィス需要は限定されて行くのでは?

 一方で在宅勤務が困難な業務があることも事実です。「対面販売の小売業」や「社外秘の情報を扱う」といったケースが代表例でしょう。

 『人事の基となる査定情報』は「持ち出し厳禁」に指定されているでしょう。また、在宅勤務に欠かせない IT サービスの開発業務もリモートで完結することは不可能と考えられます。

 したがって、セキュリティー環境などが重要視される業務を除き、無理をしてまで都市部にオフィスを構える必要性が薄れて行く流れになることは避けようがないと思われます。

 そうなると、不動産事業も “ニーズの変化” に対応することが強いられます。ビジネスオフィスの需要がゼロにはなりませんが、内容が大きく変わってしまうからです。

 残る企業は「感染症対策を含めたセキュリティー」を一層重要視しますし、スタートアップ企業は最初から「リモート前提」でビジネスを構築するでしょう。「手狭になったから広いオフィスに移動」という流れが止まる可能性を無視できないため、空室率が上がったことで生じるマイナス面は無視できないと言えるからです。

 

人の流れが大きく変わると、周辺需要にも影響が出る

 オフィスの需要が減少すると、「オフィス街への人の流れ」も減少することになります。前者は「賃料収入が減少する不動産事業」を直撃しますが、後者は「(オフィスへの移動手段である)交通機関」や「(ランチなど)飲食店」にとって向かい風となるでしょう。

 人の流れがあるほど経済活動は大きくなりますが、それが縮小すると落ち込みは不可避です。

 もちろん、ある程度までは『自衛策』を講じることで落ち込みを制限する可能性は計算できます。しかし、「オフィス街から人が消えたこと」に対して、「オフィス街での需要」を見込んだビジネスを展開している事業者ができることはほとんどありません。

 “人がいる場所” への移転を本格的に検討しなければならないですし、今後も残り続けるオフィス需要と上手く連携するなどの投資が不可避になるでしょう。

 都心部の不動産を使って本業の赤字分を穴埋めしているマスコミにとっても「オフィスの空室率増加」は他人事ではないはずです。社会部が経済部からのレクチャーを受け、『必要となる経済対策』を紙面上などで訴えるべきと言えるのではないでしょうか。