「某国旅行には決して行かないように」と行政が呼びかける中国から観光客に期待するインバウンド産業はリスクが高すぎる

 毎日新聞によりますと、中国の文化観光省が「オーストラリアには決して行かないように」と呼びかけているとのことです。

 表向きは「差別や暴力」としていますが、実態は「新型コロナウイルスの発生源の独自調査」をオーストラリア側が要求したことは “報復” でしょう。そうした行為をする国ですから、中国人観光客に依存したインバウンドは見直すべきと言えるはずです。

 

 中国文化観光省は5日、「オーストラリアで新型コロナウイルスに関連して中国人やアジア系への差別的な発言や暴力行為が明らかに増えている」として、「オーストラリア旅行には決して行かないよう」呼びかけた。

 新型コロナウイルスの発生源の独立調査などを巡り、中国とオーストラリアの対立が深まる中、中国は豪州産牛肉の輸入一時停止措置を取るなどしており、今回の呼びかけも経済面で圧力を強める狙いがあるとみられる。成競業(せいきょうぎょう)・駐豪中国大使は4月下旬、豪メディアの取材に豪産品のボイコットや中国からの観光客・留学生の減少をちらつかせていた。

 

『ボイコット戦略』を仄めかしていた中国側が “実力行使” に出た

 中国としては「中国政府が初動時で隠蔽をするなどの間違った判断・対応をしたことで新型コロナウイルスが世界中に広まった」との結論が出されることはだけは避けたいでしょう。

 だから、独立調査などを断固として拒み、調査を求める国に対して平然と圧力をかけているのです。

 オーストラリアもアメリカなどと同様に「中国人観光客」や「中国人留学生」から “外貨” を稼いでいます。また、中国市場は農産物や鉱物資源の有力な輸出先です。

 そのため、中国政府は「(中国には)オーストラリア以外にも選択肢はある。そちらはどうかな?」と経済的な圧力をかけることで屈服させようとしているのです。

 当局は中国国民に「豪州旅行に行くべきでない」との “指導” を始めたと報じられているのですから、中国人観光客に依存することによるリスクが可視化されたと言えるでしょう。

 

コロナ禍で苦しむ観光業は『インバウンド』による劇的回復に賭けるだろうが、「割合」には注意が必要

 オーストラリアだけでなく、世界中の観光業がコロナ禍による大きな痛手を受けたことでしょう。観光や周辺産業を維持するためには「国内外に関係なく観光客を呼び込むこと」で “劇的回復” を狙うことになると思われます。

 ただ、注意が必要なことは事実です。特定の顧客層に依存した集客体制を構築してしまうと、そこが何らかの理由で離れた際に軌道修正を図ること自体が困難になってしまうからです。

 以前、日本の小売店は中国人観光客からの “爆買い” に比重を置いていましたが、外貨流出を嫌う中国当局が規制を強めると大きな痛手を受けることになりました。これは小売業に限らず、どの分野においても起こり得ることです。

 観光業も例外ではありません。韓国人観光客に特化していた事業者は「韓国でのジャパン・ボイコット」の影響で痛手を受けたことでしょう。したがって、顧客の属性を(ある程度)多様化することでリスクを分散化しておくことが必要不可欠なのです。

 「『国内』と『海外』の割合をどうするか」や「『海外』の中でも『国別』でどうするのか」は経営側が決定を下す必要があります。ブームに乗るだけでなく、向かい風の場面で生き残るための工夫をしておくことが必須と言えるでしょう。

 

『観光公害』で周辺住民の恨みを買っていた場合は再始動に手間取る可能性も否定できない

 日本では観光業に対する逆風はしばらくの間は続くと思われます。なぜなら、『観光公害』が発生しており、周辺住民がその影響を被っていたことが理由です。

 『観光立国』を掲げる日本政府は「年4000万人の訪日外国人旅行客数」を目標に観光業を支援しています。

 観光客が増えることで『消費』が発生するのですが、同時に『(観光地周辺での)渋滞』や『ゴミ』も発生することで地元にはマイナス面も発生します。ここで問題となるのは「観光業に携わっていない人にはマイナス面しかない」という点です。

 「観光しか資源や働き先がない」という状況なら、観光客が増えることを嫌う地元住民はいないでしょう。しかし、観光業以外の分野に就業する人々にとっては「観光客が増えてもメリットがないことが実情」なのです。

 納税額は変わらず、道路は渋滞するようになり、ゴミの発生量が増えたことによる弊害を受ける立場なのです。また、医療機関は「旅行者の人数」を加味して整備されていないのですから、観光地によって観光業の立場は十人十色の状況と言えるでしょう。

 

 したがって、(観光業によって生計を立てていない)地元住民と上手く歩調を合わせることが重要になります。

 「相手国政府の姿勢が気に入らない」との理由で露骨な圧力をかけてくる国からの『インバウンド観光』を主力に据えても、観光地が潤わないことは明らかです。

 なぜなら、「我が国の国民から搾取するのか」との “圧力” をかけられた際に依存状態だと抵抗できずに原価に近い状況でのサービス提供を強いられるからです。

 それを防ぐためには「受け入れる観光客(の属性)を多様化」した上で「上顧客」に的を絞ることを基本路線にすべきでしょう。低価格路線はバックパッカーが勝手に開拓するため、ビジネスとして注力すべきではありません。

 主力産業にすべきでない部分に注力すると不況や思わぬ事態によって大きな痛手を受けることになるのです。中国当局によるオーストラリアへの圧力は他山の石にすべきと言えるのではないでしょうか。