『加計学園』の騒動、欲張った文科省と獣医師会が全面的に泣きを見る形で収束へ

 国歌戦略特区を利用した獣医学部新設に関する『加計学園』の騒動について、安倍首相が「獣医学部の新設を全国的に認める」と発言したと NHK が伝えています。

 既得権益を持つ文科省や獣医師会に配慮した「1校のみ」という形での規制緩和を政権批判に利用すれば、反撃を招くことになります。自業自得の結果ですが、「特区制度そのものに反対」など “反安倍” を理由にトンチンカンな批判を繰り広げてきたマスコミの矛盾点も露呈する結果になると思われます。

 

 安倍総理大臣は「半世紀以上守られてきた硬い岩盤に風穴を開けることを優先し、獣医師会からの強い要望を踏まえ、まずは1校だけに限定して特区を認めたが、中途半端な妥協が国民的な疑念を招く一因となった。改革推進の立場からは限定する必要は全くない。速やかに全国展開を目指したい」と述べ、獣医学部の新設をさらに認める方向で検討を進める考えを示しました。

 

 『加計学園騒動』での最大の勝者は京都産業大学(京産大)でしょう。文科省に門前払いされていた状態でしたが、安倍首相が岩盤規制を維持したい文科省と獣医師会をまとめて排除してくれると宣言してくれたからです。

 逆に、最も泣きを見る結果になったのは文科省と獣医師会です。特区によって、「獣医学部の新設は不可」という最善の結果は得られませんでしたが、「まずは1校に限定して様子見をする」という次善の結果は手にしていたのです。

 政府側の配慮によって “次善の結果” に譲歩されていたにもかかわらず、野党やマスコミによる政権批判に乗っかったのです。譲歩してもらった理由を自ら撤回したことでどのような損害を生じるかを理解できなかった文科省と獣医師会の失態と言えるでしょう。

 

1:「広域的に1カ所かつ1校のみ」と要望したのは獣医師会

 獣医師会は「1校のみと働きかけをしたことはない」と述べ、政権批判側に参加しています。しかし、これは明らかなに嘘をついています。なぜなら、平成28年度第5回理事会の会議報告(PDF)で次のように明記されているからです。

画像:獣医師会による会議報告の内容

 山本内閣府特命担当大臣あて、獣医学部の設置認可申請があった際は、国際水準の獣医学教育の提供は無論、当該獣医学教育施設及び体制が閣議決定した 4 条件を満たすか否か、内閣府、文部科学省、農林水産省等で厳しく審査すること、さらに今回決定された「広域的に獣医師養成系大学等の存在しない地域」を 1 カ所かつ 1 校のみとすることの明記を要請した。

 獣医師会が「1カ所かつ1校のみと明記する」ことを要請しているのです。つまり、獣医師会の藏内会長が述べた「働きかけはしていない」という発言自体が嘘であることは明確です。

 政府をスケープゴートにして、自分たちの既得権益を守ろうとする姿勢の方が問題と言えるでしょう。

 

2:「獣医師不足の挙証責任を果たしていない」というマスコミの主張は間違い

 『加計学園騒動』でマスコミが行う批判として「政府は獣医師不足であるとの挙証責任を果たしていない」というものがあります。

 この主張については過去記事でも言及しましたが、論理のすり替えです。なぜなら、挙証責任は文科省にあり、「獣医師は足りている」ということを文科省が示さなければならないからです。

表1:加計学園の国家戦略特区認定プロセス
実際のプロセス マスコミの誤った認識
  1. 文科省が獣医師の需要予測を示す
  2. 1で「獣医師が足りている」と文科省が示せば、拒否権が発動
  3. 2で拒否権が発動しなければ、獣医学部の新設が特区として認可
  1. 政府が獣医師の需要予測を示す
  2. 1で「獣医師が足りていない」と示されれば、獣医学部の新設が特区として認可
  3. 2で獣医師不足が政府から示されない限り、現状維持

 文科省が「獣医師は足りていること」を示せば、獣医学部の新設に対する “拒否権” を行使できます。しかし、文科省はそれができなかったのです。

 2015年6月に行われたワーキンググループの議事録(PDF)でも指摘されていることです。

画像:文科省に挙証責任があることは議事録からも読み取れる

 公開情報に掲載された内容を理解することすらできていない東京新聞の望月衣塑子氏ような記者を英雄のように祭り上げているのです。これではマスコミに調査報道をする能力など備わっていないと言わざるを得ません。

 

3:転んでもタダでは起きない安倍政権

 安倍政権がどのようなプロセスで獣医学部新設のために動いていたのかは2017年6月13日に行われた有識者委員による記者ブリーフィングPDF)で公開されています。

  • 参入制限があること自体がおかしい
  • 制限をするなら、根拠を示すべき
    → 文科省は根拠を示せず(2015年6月のWG)
  • 獣医学部新設の希望は今治・京都・新潟からあった
    • 四国全域で獣医学部がなく、切実なニーズがある
      → 今治が第一号であることは妥当
    • 北陸・山陰には獣医学部がなく、“広域的に存在してない” と WG の委員は認識している
  • 既存の獣医師が顧客喪失を懸念することは理解できる
  • 獣医師会が「1校限定」を強く求めてきた
  • WG は「広く門戸を開けるべき」との立場。最終的に1校となったが、突破口を開くという観点から受け入れた

 当初の目的は「獣医学部新設の規制撤廃」だったと言えるでしょう。ただ、いきなり実施すると既存獣医師の生計が成り立たなくリスクがあるため、特区で様子見するという流れで動いていました。

 “広域的に存在していない地域でかつ1校に限定” との最大限の配慮をしたにもかかわらず、獣医師会は何を思ったのか、「1校に限るなどと要望したことはない」と手のひらを返したのです。特区制度そのものを潰せる(=自分たちの既得権益を守れる)と思ったのでしょう。

 しかし、安倍首相が1枚上手でした。当初の目的である「広く門戸を開けるべき」との立場を容認する全国展開を明言したのです。おそらく、獣医師会が求めた “広域的に存在してない” との条件も破棄されることになると思われます。

 

 当事者である今治市や愛媛県の主張には一切耳を傾けず、既得権益を持つ文科省や獣医師会の主張ばかりを伝えることは報道ではなく、単なる政権批判です。

 特に、公開情報があるにもかかわらず、自社の主張内容が崩れる情報を隠すことは悪質と言えるでしょう。マスコミが報じる内容が事実である保証はどこにもなく、政権批判の記事については根拠そのものが滅茶苦茶であるものは日常茶飯事的に報じられている実態を念頭に置いておく必要があるのではないでしょうか。